じぃじぃと、これでもかと泣き喚く蝉の声に少女はぱちりと目を開く。
 むくりとベッドから身を起こし、隣を見れば、いつもならまだ横にいる姿が見えず、思い出す。
 今日は引越しの日。
 パパが、ママと自分のために立ててくれた真っ白なかわいいお家へ引っ越すのだ。
 耳を澄ませばガタガタと、荷物を動かす音や見知らぬおじさんの声も聞こえる。
 昨夜の内に枕元に置いておいた真っ白いワンピースに着換え。鏡に向かい、慣れた仕草で移動して、置かれた小さなライトのスイッチを入れる。
 とっくに朝を迎えたのに薄暗い部屋。
 ライトをつけなければよく見えないのだ。
 けれど少女はそのことを不思議だとはさらさら感じていない。
 生まれた頃からいつだって、部屋の中に日の光は差したことがないのだ。
 ごく当然の、いつもの朝。鏡を見ながら、髪を櫛ですく。

 真っ黒でさらさらの髪はパパから。
 真っ白な肌はママからのプレゼント。
 そして、光を浴びると紫味を帯びる大きな瞳は、二人からの贈り物。

 おじいちゃんはいつもニコニコしてそう教えてくれる。