『……でも、綺麗だ』

 あんなふうに言ってもらうのは嬉しかった。
 驚かれたり、気持ちわるがられたりするのはしょっちゅうで慣れている。
 たちが悪いのは同情と憐れみの目でみられることだ。
 そういう態度で接されると、とても居心地が悪くて、どうしようもないやるせなさにも似た感情に支配される。
 悪いことなど何もしていないのにどこかやましい気分。
 何故、そんな気分にならねばならないのかと、理不尽な思いにかられてしまう。
 一見優しげに聞こえる言の葉に、不快感を感じることは多々あった。

 だけど。

 蒼太が言った言葉にそんなものは感じられなかった。
 口数は少ないしちょっと愛想はないけれど。彼はどこか素直で……その話し方や、低い優しいトーンの声は素直に好感が持てる。
 そんな雰囲気が彼を、実際の年齢より上に感じさせるのだろう。
 しかし、こうして隣で眠る彼の寝顔をみてると、おだやかで涼しげな顔立ちながら、輪郭は細く柔らかで、まだ幾分少年のような印象も残している。
 蒼太は、紅葉が今まで出会ったことのないタイプの人間で、それが紅葉の好奇心をくすぐった。
 交わした言葉やここまで来た経緯を思い出しながら穏やかな寝顔を見ていると、何故かしばらく忘れていた人達のことを思い出す。

 遠くに住む両親。
 家を出てから一度も帰ってないから、もう随分と逢っていない。
 何かがあって家を出たわけでもないし、二人のことを嫌いなわけでもない。
 両親とも、紅葉に優しかった。紅葉という名前は父がつけてくれたものだ。
『目が紅くてとても綺麗だったから……』
 父はそう言っていた。
 人と違う容姿を気にする紅葉に母は
『お人形さんみたいでとてもかわいいわよ』
 よく、そう言ってくれた。