久しぶりの蒼太のアパート。
 中に入った紅葉は目を丸くした。
「うわあ……」
 いつも綺麗に片付ける蒼太にしては珍しく、床に散らかる紙の切れ端、テーブルの上に点々とついているのは、絵の具だろうか?
「ああ、片付けないまま出かけてたんでした。夕方まで緑が来てたんですよ」
 夏休みの自由工作と格闘した後であろうことはすぐにわかった。
「なるほど」
「夏休み中は毎週きてたんです。紅葉さんに会えなくて寂しがってましたよ」
 蒼太が片付けながら言う。
「そか、心配させちゃったかな?」
 寂しがってたと聞いて、申し訳ない反面、少し嬉しいような気持ちになる。
 兄弟のいなかった紅葉にとって、緑は弟みたいにかわいくて、緑が自分を慕ってくれてると思うと嬉しかった。
「そうですね。でも多分また近いうちに会えますよ」
 そう言って蒼太はにっこり笑う。
『ああ、帰ってきたんだ』
 蒼太の笑顔を見て、紅葉はしみじみと思った。
「紅葉さん?」
 気がついたら蒼太の背中にしがみついていた。
「ずっと、電話したかったんだ」
「僕もですよ」
 紅葉にしがみつかれ、片づけをしていた手を止めて、蒼太は答える。
「ずっと、会いたかったんだ」
「はい。僕もです」
 紅葉の方へ向き直り、蒼太は微笑んだ。
「多分、僕と、紅葉さんが連絡をとらなかったのは同じ理由なんじゃないかとおもうんですが」
「……だね」
 お互い詳しく理由は言わなかったけれども、こうして顔を見合わせて話してる今、そんなことは言わないでも充分に気持ちは伝わる。
 二人は顔を見合わせて笑った。