すこし恥ずかしげにはにかむ、その顔を見た瞬間、頭の中が真っ白になった――

 無我夢中で、華奢なその身体を抱きしめる。
 応えるように、背中に回された細い腕に力が込められるのを感じ、これが夢ではないと知らされた。
「ただいま」
 腕の中から紅葉の声が聞こえて、抱きしめた腕はそのままに、少しだけ、身体を離して顔を見つめる。
「おかえりなさい」
 蒼太の言葉に、紅葉の顔がほころんだ。
 再び、強く抱き寄せる。
 腕の中に、確かに在る熱に、満たされる……
「おそくなって、ごめん」
「いいえ」
「待ってて、くれた?」
「はい」
「よかった」
 腕の中で、ほっとしたように紅葉がつぶやいた。
 その言葉に、蒼太も安堵感につつまれる。
 そのまま、しばらく無言で抱き合った。
 余計な言葉も、なにもいらなかった。
 ただ、互いの熱を確かめるだけで満たされる感覚。
 それだけで、充分だった……