紅葉の頭を、抱きしめたまま母が問う。
「どうしたいの? 紅葉?」
「お母さん」
「いいのよ言って。私たちは大丈夫。私たちの望みはあなたが幸せなこと。あなたの望みは、何?」
 優しく促す母の声に、気持ちがあふれ出し、言葉になった。
「会いたい……帰りたい……。蒼太と……一緒にいたい」
 嗚咽まじりにこぼれた、娘の言葉に母は頷いた。腕をほどき、涙で潤んだ紅い瞳を見つめる。
「行きなさい。紅葉」
「でも……」
「大丈夫。お母さんたちもう平気だから。その人のとこ、帰ってあげるの」
 そう言って、母は微笑んだ。
「待っていてくれてるんでしょ?」
 正直、こんなに長い間連絡ひとついれずにいた自分を、蒼太が待っていてくれる確証など何もない。
 それでも、蒼太はきっと待っている。
 何故かそう思う。
「お母さん……ありがと」
 紅葉は涙をぬぐい、母の顔を見つめた。
 強く静かな眼差しがそれに応える。
『お母さんの子供に生まれてよかった』

 心から、そう思った――