ある夜、緑の夜泣きがひどくてとまらず、背中におぶって外にでた。
 背中で泣き止まない緑をおぶって、庭を何週か歩いていると……
 ふいに泣き声がやんだ。
 肩越しに緑を覗き込むと、緑は星空の真ん中にぽっかりと浮かぶ月をじっと見ていた。
 見やすいように縁側へ移動して腰掛け、背中からおろした緑を自分のひざの上に座らせ、一緒に空を見上げてみる。
「まぁ……ま」
 しばらくじーっと月をみていた緑が、そう言って笑った。
 とてもうれしそうな笑顔。

 その瞬間――

 とても暖かいものに包まれているような感覚をおぼえた。
『お母さん……』
 もういない母が、今もすぐそばにいるような気がした。
 ずっと空からみていてくれる。
 姿はなくとも
 そのぬくもりにふれることはできなくとも
 いつだって――

 その表情はもう思い出せないけれど……
 その声ももう、思い出すことができないけれど……