そう言って嬉しそうに、にこにこと紅葉を見つめていた母だったが、不意に、ふと視線を伏せた。
「ごめんねぇ。紅葉」
 母の口から漏れた言葉に紅葉は首を傾げる。
「私は今の紅葉がとっても好き。でも、私がちゃんと産んであげてたら、もっと沢山恋もできたんだろうに……」
 思わぬ母の言葉に紅葉は言葉を詰まらせた。
 負い目を感じていたのは、紅葉だけではなかったのだ。母の言葉じりに滲む、申し訳なさげな響き。それが紅葉にそのことを瞬時に悟らせた。
 紅葉は慌てて頭をぶんぶんと横に振る。
 まさか、母がそんなことを思ってたなんて、知らなかった。いや、知ろうとしたことがあっただろうか……
 自分の負い目に気を捕らわれすぎて、周囲の人の気持ちを推し量る余裕すらなかったことを改めて思い知らされる。
 あんなにずっと優しく愛情を注いでくれてたのに何故気がつかなかったのか……
 母や父にも思うところはあったに違いないのに、何故それをマイナスにしか捉えられなかったのか……
「あたしは、ずっと自分が普通だったら、もっとお母さん達が幸せだったろうって思ってた」
 今まで、言えなかった。自分の気持ち。でも、言わなくてはいけないと思った。
 言わなくては伝わらないことも沢山在る。現に、母がそんな気持ちでいたことすら気持ちすら知らなかった。
「そんなことないわ」
「あたしは、自分がちゃんと産まれてあげられなくてって……」
「どうして? 悪いのは母さんの方よ?」
 お互い、顔を見合わせる。
 互いにとんでもない勘違いをしていた。今更、そんなことに気がつくなんて。
「ばっかみたい」
 紅葉がふきだす。
 母も、そんな紅葉を見て苦笑する。
「お母さん」
「何?」
 紅葉は精一杯の思いを込めて母に言った。








「私を私に産んでくれて、ありがとう」