それからしばらくは忙しい日々が続いた、
 病院へ毎日見舞いへ行き、毎日家の掃除、洗濯などに追われ、苦手な炊事にも挑戦せざるを得なかった。
 料理の本を見ながら、蒼太の手つきを思い出しつつ見よう見真似で作る。
 蒼太の料理するのをしょっちゅう見ていた甲斐もあり、本の内容もなんとなく理解できた。
 最初はうまくいかなかったが、だんだんとなれて、何とか食べれるようになる。尤も、父は紅葉が何を作ろうと、おいしいと言って食べてくれるのだが……
 三日目に病院へ行くと、母の呼吸器がはずされており、ほとんど眠ってばかりでたまにしか目を開けなかった母が起きていた。
「紅葉……夢じゃなかったんだ」
 身体はベッドに横たえたまま、病室に入ってきた紅葉に顔だけ向けて、母は嬉しそうにそう言った。
「お母さん。よかった……」
 駆け寄った紅葉に手を伸ばす。紅葉がその手をとるとじっと、満足げに娘の顔を見つめる。
「何だか、綺麗になったわ」
 父と同じ台詞を言われ、紅葉は顔を赤らめた。
「そうかな……? お父さんにも言われた」
「うん。綺麗になったわ、前よりもずっと。好きな人でもできた?」
 母の言葉にドキリとする。女の感というやつだろうか。
「うん……」
 顔を真っ赤に染めながら、素直に紅葉は答えた。
「ふうん……どんな人?」
「凄く……いい人。あたしにはもったいないくらい」
「そう。よかったわ」
 母は本当に嬉しそうにそう言って紅葉を見つめる。