「おかえり、紅葉」
「律ちゃん……」
 背は紅葉より少し高い。スレンダーなその体のどこにこんな力があるのだろうというくらい強い抱擁のあと、律子は微笑んだ。
「元気そうで良かった」
「ありがと。律ちゃん」
「今、薬で眠ってるけど、会ってくでしょ? 一番奥の部屋だよ」
 律子が今来た廊下の奥へ、目で案内する。
「うん」
 紅葉は短く律子に頭を下げると廊下の奥へと歩いて行った。
 後に残されたアキラと律子は目をあわせる。
「まさか紅葉んとこ行ってたなんて」
「いや、正確にいえば蒼太くんに会いに……」
「馬鹿。屁理屈言わない!!」
 律子に怒られアキラはしゅんとなってしまった。
「で?」
「あー、うん。なかなかよさそうな奴だったぞ。まぁ、俺には劣るがな」
「なに言ってんの」
 律子は呆れたように、ため息をつく。が、すぐに意味深な笑みをうかべ言った。
「また紅葉に振られたねぇ」
 アキラは決まり悪そうに頭をかく。
「なんだよ。お見通しなら慰めてよ?」
「ばっかねぇ。アンタにはあたしで充分なのよ」
 律子は仕様がないといった様子でアキラの肩を叩いた。
「紅葉連れてきてくれてありがと。許したげるから、ウチ帰ってきなよ」
 そう言い残し、律子はくるりと背を向けてナースステーションへ戻っていく。
 アキラは小さくガッツポーズを決めて、紅葉を待つことにした――