じっと目を逸らさず自分を見上げる彼女の表情を伺う。
 少しだけ見せた居心地悪げな空気はあっという間になくなり、むしろなんだか機嫌がよさそうだ。
 容姿については納得がいったので、今度はもうひとつ気になっていたことを聞いてみることにする。
「あの……それよりも、どうしてここに?」
「どうしてって?」
 彼女は一瞬キョトンとして、
 そしてクスクス笑いだした。
「変なコ。うん、確かにそうだ。疑問だよねえ……うん」
「変って……?」
「いや、ごめん。なんでもない。うん。なんでここにいるんだろね」
 彼女はまだ笑いながら蒼太に手を差し出した。
「ごめん。まだ名前も言ってなかった。あたし紅葉」
「クレハ……さん?」
 よくわからないままに差し出された手を握ると、その手は、夜の空気のようにひんやりとしている。
「アンタは?」
「蒼太」
「ソウタね……。ね、蒼太は一人暮らし?」
「そうですけど?」
 聞かれるままに、素直に答えていると
「そうなんだ?あたしはね、今日宿なしなんだ」
 そう言って彼女は意味ありげに、にっと笑った。

 その顔を見たら――

 言葉の意味を考え終わるより先に、勝手に口が動いていた。
「うち……来ます?」
 自然にでた言葉に、蒼太は自分でも驚いた。
 会ったばかりの人に一体何を言ってるんだろう?

 ただ、思ったのだ。
 この綺麗で不思議な人と。
 もう少し。
 もう少し、一緒にいてみたいと……

 少々、唐突な申し出だとは思ったのだが
「うん」
 紅葉と名乗ったその人はそう頷いた――