静かに、でも強く諭すように繰り返す。
「すぐに行って下さい。紅葉さん、迷ってるヒマはありませんよ」
「う、うん」
 蒼太の言葉に、弾かれた様に立ち上がり、急いで支度をする。アキラも慌てて用意を手伝う。
 その間に蒼太はタクシーを呼んだ。
「来ましたよ。タクシー」
 ひととおり用意を済ませたころ、タクシーが着いたので慌ただしく三人で乗り込み、駅へと向かう。
 車内では、誰も声を発することはなかった。
 紅葉は、ただ蒼太の手をずっと強く握り締め、唇をかんでうつ向いていた――




 駅へ着くと、アキラは電車の時間の確認と切符を買いに窓口へ向かい、蒼太と紅葉は待合室のベンチに座りアキラを待つ。
「ごめん」
 蒼太の手を握ったまま並んで座り、紅葉はうなだれた。
「何言ってるんですか」
 蒼太がなだめるように言う。
「ずっと、側にいるって言ったのに……」
「いいんですよ。紅葉さん、それよりも今はお父さん達の側にいなきゃ。会いたいと思っても会えなくなることもありますから」
 蒼太の言葉に紅葉はハッとした。

 蒼太は母親を亡くしたのだ――

 紅葉は胸が苦しくなった。
 蒼太の言葉には、経験をした人間だからこその重みがある。
「蒼太、あたしは……」
 紅葉が話しかけた時、アキラが切符を持って戻ってきた。