シャワーを浴びて、紅葉が部屋へ戻ると、アキラが一人煙草をふかしていた。
「あれ? 蒼太は?」
「夕飯の買い出しに行った。ご馳走してくれるそうだ」
「ふぅん」
 にこにこしながらアキラの隣に紅葉は腰をおろす。
「ね。いいやつでしょ?」
「まぁな」
 アキラは煙を吐きながら短く答えた。
「蒼太の料理めちゃ旨いよ」
「まじか。ずりぃ~なそれ」
 アキラがややため息まじりにつぶやく。
「……? 何か元気ないなアキラ?」
 脳天気に不思議そうな顔する紅葉の頭を、アキラはやみくもにぐしゃぐしゃと撫でた。
「微妙な心境なわけよ。まあでも……」
 もう一度、今度は長く、煙草の煙を吐き、アキラは言った。
「良かったな。いい奴じゃん」
 途端に紅葉の顔が明るくなる。
 紅葉は嬉しかった。
 アキラは割と人の好き嫌いが激しい方だ。
 だけど、この口調から察するに、蒼太は嫌われてはないようだ。
「俺としては色々と悔しかったりもするけどな。今すっげ、いい顔してるよ、お前」
「うん」

 まいったなぁと、アキラは嬉しそうな紅葉の顔を見て改めて思う。
 紅葉の表情が全てを物語っている。
 幼い頃を思い出させる、屈託のない笑顔。
 幸せでなければ、こんな顔はできない。
 それが自分ではないのが少し寂しい気もするが、紅葉がそんな相手に出会えたことは、嬉しかった。

 いつまでも。
 その表情が曇ることがないように――

 アキラは心の中で、普段は信じもしていない神様に、そう願った。