黙々とスプーンでオムライスを口へ運びながら、アキラはぼんやりと紅葉のことを考えていた。

『男のとこねぇ……』

 先日電話では笑って話していたが、男と住んでると聞いて内心穏やかではなかった。
 今までも、彼氏がいたと聞いたことはあったが、そんなに気になったことはない。
 だが、今回は違った。
『いい奴そうではあるが、七つも下って言ってたよな』
 自分も色々な女と付き合い、今では律子という立派な嫁もいるが、アキラにとって紅葉は特別な存在だ。
 その紅葉が、珍しく、男のことで悩んでいたのがとても引っ掛かっていた。
 あんな紅葉は初めてかもしれない……
『大丈夫か ?あいつ』
 例えるならば、かわいい娘が彼氏を連れてきた時の父親に近い心境かもしれない。
「何ボーッとしてんのよ」
 母親の声にアキラは、我にかえる。スプーンに乗ってた筈の、ケチャップ色のご飯粒が皿の横にこぼれていた。
「子供じゃないんだから」
 呆れたような顔で母親がこちらを見ている。
「わりぃ」
 短く謝罪して、残りを掻き込むと、アキラは慌ただしく席をたって二階へ戻った。
 自室に戻り、手早く着替をすませると、実家に戻るときに持ってきた手荷物を持って、すぐに下へ降りる。
「母ちゃん。しばらく出かけるから」
「は? 律子さんとこ帰るのかい?」
「んにゃ。ちょっと用事」
 そう言って、バタバタと玄関へ出ていくアキラを不思議そうに見送りながら、ため息をつく。
「相変わらず落ち着きのない子だねぇ」