駅までは熊蔵がトラックで送ってくれた。
 眠りについてすぐに起こされ、蒼太と紅葉が帰宅することを聞いた緑はかなりがっかりした様子を見せたが、もちろん見送りにはもれなくついてきて、途中で機嫌も直ったようだ。
 熊蔵に丁重に礼を言って、緑の熱い抱擁に応えて、紅葉と蒼太は電車に乗った。
「また来てくださいね」
 別れ際に熊蔵が言った言葉が、紅葉の胸に暖かい余韻を残す。
『きっとまた来よう』
 紅葉は心の中で強く思った。暖かな人たちがいる山奥の小さな家。
 そこでの一夜はとても紅葉の心に残る一夜だった。
 電車に乗って、手を繋ぎ、並んで座る。
 来る時とはまた違った、満たされた思いで一杯だ。

 言葉すら必要ない。

 それは紅葉だけでなく蒼太も同じで……
 二人はただ、黙って、心地よい電車の揺れに身を任せた。