その扉の向こうに

「田中さん?」

先生が不思議そうに私を見る。
あまりの嬉しさに、私は固まっていたようだった。どうやら返事をするのを忘れ、先生を見つめていたらしい。

「も、もちろん!喜んで、はい!」

「ありがとう」

先生はそう言うと早速ノートを開いた。目に入ってきたページは、びっしりと先生の文字で埋まっている。

私達は窓際の机に向かい合って座った。いつもより近く、今ここには二人きり。その状況のせいで心臓の音が耳の奥で響いて、顔が熱い。

私はこの人が好きなんだ、と心の奥底から思った。

先生がいつもの授業の声で、ノートの内容を話す。眼鏡越しの視線は私一人に注がれて、それが余計に耳の奥の音を響かせた。

私はただ先生の視線を受け、先生の声を聞いていた。

この地域の古代から現代まで、先生の声は淀みなく歴史を紡いでいく。
目の前を通り過ぎていくそれらはどれも生き生きと輝いていた。