葵と仁の関係は、葵の熱をきっかけに縮まって来ていた。しかし、気持ちを寄せきれていない。仁のよそよそしさが原因だ。部屋も別のままだった。それが今の二人には普通だと思い始めていた矢先、ようやく新婚旅行に行くことになった。そうは言っても、仁がパリに10日間程の出張があり、来ないかとの誘いがあっただけで、仕事のついでだ。





「パリ?」

「そうパリ」

「えー!! 仁さん、本当にパリ?」





突然のことで、パリがうまく把握できなかった葵は、何度も確認をしてしまった。仕事と一緒であっても葵は嬉しさで一杯だ。表情もほころぶ。



仁からパリの話がでた翌日に、葵は早速、有給の申請をした。



有給もたっぷりと残っていた葵は、夏休みなどのシーズンでもなく他の従業員と休みが被らなかった為か、何も言われることなく休みが取れた。申請した日数は一週間だった。





「仁さん、休みが取れました」

「そうか、良かったな。仕事であまり一緒にはいられないが、潤にスケジュールの都合はつけるように言ってあるし、俺が抜けられない時は潤が観光の相手をしてくれるから」





夕食を囲み、休みが取れたと報告する。珍しく仁が夕食までに帰宅していた。夕方にメールで早く帰ると報告を受けた葵は、急いで家に帰り夕食の支度をした。うきうきした気分が献立に表れたのか、手の込んだ煮込みハンバーグが食卓に並んだ。





「でも潤さんは仁さんの秘書なんだから、行動を一緒にしなくていいんですか?」

「潤は第一秘書だけど、第二秘書までパリに同行をしているから問題はない」

「そうですか」





秘書は二人いるけれど、副社長は仁が一人。大企業を背負って立つ重責は、葵には図りしれないものがあるに違いない。家では張りつめた感じはなく、ゆっくりと過ごせているように見える。彼女は、それが自分の仕事だとも思っていた。





「葵」

「はい」





いつものように、食事を終えて、仁はコーヒーを淹れる。少し、前と違うのは、夕食後にすぐに自室に戻っていた葵は、仁と時間を過ごすようになっていた。だが、敬語は変わらずで、距離はまだ縮まったとは言えない。



しかし、それだけではなく、他に接触することも無かった。葵は、もう半分諦めていた。恋愛して結婚をした訳ではない。葵は義孝の仕事、借金を考えた計算での結婚。仁はどうして見合いをセッティングして葵を選び結婚を決心したのかはまだ聞き出せていない。そこまで聞く勇気と、絆が二人の間にはまだないと感じているからだ。少しの歩み寄りと、気遣い。それは感じている。急がないと決めたのだ。



今回は、仕事がメインの新婚旅行だけれど、少しでも自分の事を考えてくれたと、思うようにして満足していた。





「親父がパリに行く前に食事をしようって言っているから、来週末にでも実家に行こう」

「はい」





義父の克典も社長であるがために忙しく、一緒に食事をしたことは数回しかなかった。嫁として、顔を出さなければと義務を感じていたが、義母の理恵も無理はしなくて良いといい、心の荷が、少し軽くなっていた。





「パリに行く頃はいい季節だ。行きたいところを考えておくといい」

「わかりました」





来月に迫ったパリに葵は思いを馳せた。