「葵」





葵を布団の上からトントンと叩いて、名前を呼ぶ。仁だ。





「葵」

「う……ん……」

「こんなところに眠ってたらダメじゃないか」

「……仁さん?」





目を開けると、心配顔で葵の顔を覗き込む仁と目があった。ゆっくりと起き上がって、目を開ける。





「なんでこんなところで眠ってるんだ?」

「テレビが観たくて……」





親に怒られている子供の様に、シュンとする。





「……まったく」





呆れ顔で言うが、口調は優しい。葵を軽々抱き上げる。





「え……ちょっと……」





仁はスタスタと歩き、自分の部屋に葵を連れて行く。部屋に入ると、ベッドに葵を寝かせて、テレビのリモコンを持たせた。





「ここに寝ていなさい」





ぶっきらぼうに言って、仁は部屋を出て行った。

残された葵は、あっけにとられ、暫く手にあるテレビのリモコンを見ていたが、すぐにむくれた。





「何よ、自分だけこんな大きなテレビを付けちゃって」





ベッド正面の壁に、大きなテレビが設置してあった。葵は、仁の部屋に入ったことがない。掃除もしなくていいと言われ、禁断の部屋だった。

羽毛の枕に頭を埋め、テレビを点ける。こんな至福の時はない。

大好きなテレビを観ていると、仁が入ってきた。手には、トレイを持ち、手首にはコンビニの袋が下がっている。





「お腹が空かないか?」

「すみません」





サイドテーブルをベッドの脇に寄せ、仁は椅子に座る。葵は、ベッドから体を起こして、仁からトレイを渡された。





「仕事は?」

「今日は会議だけで、早く帰ってきた」





そっけなく答える仁は、いつもと同じだ。がさごそと袋から食べ物を取り出して、テーブルに広げた。





「食べよう」

「あ、はい」





甲斐甲斐しい仁だが、相変わらず、無口だ。この状況で、色々な考えや思いが葵の頭を駆け巡る。





「明日は、仕事に行けそうか?」

「はい、そのつもりです」

「よかった」





意外と食欲が戻った葵は、仁が用意したコンビニの食事も平らげられた。水やお茶、色々な物を買ってきた仁は、葵の様子にほっとしている。その表情が出ないのが、勿体ない。

片付けを済ませ、仁は、部屋横のクローゼットに行き、スウエットに着替える。





「私、自分の部屋に戻ります」





さすがに居心地が悪いと思ったのか、葵は、ベッドから出ようとしていた。それを仁が、悪魔の囁きで返す。





「テレビが観たいんじゃなかったのか?」





葵は、無言でベッドに戻る。そんな葵を仁は笑う。実際、テレビはどうでも良かったのだ。葵は仁の傍に居たかったのだ。仁は、書類を持ってベッドに入る。





「仕事ですか?」

「いや、確認するだけだ」





寝ている隣で仁は書類のチェックを始めた。これが普通の夫婦の情景だ。それも新婚なら、なおさらだ。この状況に照れる葵は、仁をまともに観られない。ちらりと横目で見ると、仕事をする顔はさらにいい。葵はそんなことを考えながら、テレビを観ていた。