「今日は休みなさい」

「はい」





仁は葵が心配で、夜通し葵の寝室で看病をしていた。頻繁に目を覚ます葵に、仁は甲斐甲斐しく看病にあたった。家事の出来ない仁に、出来ることは限られていたが、それでも葵は、嬉しかった。

スーツに着替え出勤する前に、葵に言う。





「何かあったら必ず電話をするんだよ」

「はい、かなり熱も下がったので大丈夫です」

「熱が下がったからと言って、家事をしようなどと思わないで、大人しく」

「わかりました」

「じゃあ、行ってくる」

「いってらっしゃい」





寝ている葵に送り出される仁は、なかなか部屋を出て行けない。病気の葵に対して悪いが、こうして会話をしているこの時間が、ずっと続いて欲しいと思う。葵は、いつでも仁に寄り添っていた。それをそっけなくしていたのは、自分だ。仁は、そんなことを思いながら、葵を見つめる。





「仁さん? どうかしましたか?」

「いや……行ってくる」

「いってらっしゃい」





二度目の送りで、やっと仁は部屋を出た。

仁が言ったことを確認すると、葵は、布団を口元まで持って来てにやける。部屋に戻るように何度も言ったが、仁は、葵の傍を離れず、ずっと手を握っていた。





「風邪がうつらないといいけど」





そんな心配もあったが、何より、傍にいてくれたことが何より嬉しい。他人行儀な結婚生活が続いていたが、こんな些細なことで葵の心は満たされる。

関節の痛みが残るが、熱は平熱に戻りつつある。





「身体が痛いから、少し起きてようかな?」





上半身を起こして、足を降ろす。少し頭がふらついて、額を手で抑える。

暫く座ってゆっくり立ち上がる。





「大丈夫ね」





真っすぐに歩けることを確認すると、バスルームに向かった。

朝から入る風呂は贅沢だ。時間を気にせずにゆっくりと入れる。身体を大きく伸ばすことのできる風呂に浸かり、リラックスする。

新しいパジャマに着替え、自室から布団を抱え、リビングに行く。





「テレビが観られる~」





テレビを観るのが、何より好きだった葵は、仁と結婚していらい、まともに観ていなかった。ボーナスが出たら、部屋にテレビを買うつもりだ。





「あ~、贅沢だ」





リモコン片手に、テレビをザッピングする。テーブルにはスマホを置き、動かなくていい。

大きく、座面が広いソファは、ベッド替わりになる。



熱が平熱近くまで下がったとは言っても、病み上がりの身体は怠さが抜けない。お腹は空くが、作る気になれず、朝食用にと買い置きしてあるシリアルを食べる。



休んだ日ほど時間が過ぎるのは早く感じ、葵は、明日の仕事が憂鬱になり始めた。





「久しぶりに休んだから、仕事に行きたくないなあ」





テレビ鑑賞を満喫し、腹は満腹とまではいかないが、それなりに空腹は満たされた。薬の成分もあり、眠気が襲う。あくびを何度もしながら、テレビを観るのをやめなかった葵だが、とうとう、目を閉じていた。