「こないで」

「どうした」

「うつっちゃうから来ないで、そのままドアを閉めて、出てください」





葵は、ベッドで横になっている。葵の制止も聞かずに、仁は無理やり部屋に入っていった。





「葵? どうした? 具合が悪いのか?」





仁は葵のベッドの傍まで来た。





「仁さん、風邪なんです、うつるから傍によらないでください」





夜になり、葵の熱は更に上がり続けていた。葵の額に手をあてると、一瞬、手を離してしまうほど、熱の高さに、仁は驚く。





「すごい熱じゃないか」

「薬は飲みましたし、下がるのを待つだけです。何も心配ないので、部屋から出てください」

「何を言ってるんだ」





スタンドの灯りだけでも、葵の部屋の状態が分かる。

テーブルには、封を切って皿に出したレトルトのおかゆ。スプーンが入ったままで、さほど量は減っていない。水は、枕元にストローを指して、置いてあり、予備がテーブルにあった。店のビニール袋から、ただ出されただけの状態でテーブルには、色々な物が乱雑に置かれていた。





「嘘の連絡を……」





葵から連絡がきた時間を思い出す。





「仕事は早退して帰ったのか?」





葵は、黙って頷く。

仁は葵に何も言わずに、部屋を片付け始めた。





「いいんです、仁さん。そのままにしておいてください、後でやりますから」





ベッドから起き上がり、仁を止めようとしたとき、仁が葵を抱きしめた。





「朝から元気がないと思っていたのに……顔色も悪かった。もっと気遣いをするべきだった。ごめん」

「仁さん」

「気遣う嘘も見抜けないなんて」

「嘘は見抜かれたらおしまいです」

「こんなに身体が熱い。辛かっただろう」





葵を抱きしめていた仁は、そっと葵を横に寝かせる。布団を掛けなおして、葵の顔を見る。





「薬は?」

「飲みました」

「ゆっくり寝て。傍にいるから」





仁は葵の手を握る。葵は、頷き、目を閉じた。

寝息が聞こえると、仁は、葵の手をそっと離し、静かにテーブルの上を片づけだす。



ビニール袋に入れ込み、葵の脱いだ服を椅子の背もたれに掛けた。

食べ残したおかゆをキッチンで洗い流し、仁はため息をつく。





「葵はレトルトで、俺は外食かよ。情けない」





仁は葵がいる部屋の方向を見て、ため息をついた。