「ありがとうございます」

「俺の部屋は知っているよね? 何かあったら声をかけて」

「はい、わかりました」





これではまるでシェアハウスの住人だ。

結婚のきっかけが特殊なのだから仕方がない。仁に従うしかないのだ。借金を返せれば対等で居られる。葵はそんな事を思った。





「荷物はとりあえず運んでおいたけど、整理するのは明日にするといい。それと、設備の使い方も明日に説明するから。じゃあ、疲れただろうから、ゆっくり休んで」

「はい、おやすみなさい……あ! あの!」

「ん?」

「あの、お風呂はどうなさいますか?」

「ああ、俺に気を使う事はないよ。自由に入って」

「……はい」

「じゃあ、おやすみ」

「おやすみなさい」





仁が部屋から出て行くと、葵はベッドに倒れ込んだ。





「これでいいのか、悪いのか」





複雑な心境だ。新婚一日目にして既に疲れが出ている。

結婚式が終われば、初夜といわれるものを迎える。そして新婚旅行。いくら見合い結婚でも、まだお互いに好意を持っていなくてもせめて部屋は一緒がいい。そうじゃなければ、このままずっとお互いに歩み寄らないままになってしまう。



結婚した以上は葵にだって覚悟が出来ている。戦国時代じゃあるまいし、政略結婚として使われたんじゃない。ちゃんと仁という人柄を見て決めたのだ。





「同居人か? 私は…… はあ~先が思いやられる。明日の朝ごはんはどうすればいいのよ」





ベッドで、大の字になり、天井を見つめる。頭の中を駆け巡る色々なことに、目をそむけたくなるが、もう始まっている結婚生活だ。何度も、何度もため息を吐くが、ついたところで、何も変わらない。





「好きになるしかないんだから」





いろいろな心配をしつつ、葵は、疲れもあって、いつの間にかそのまま眠ってしまっていた。