「仁」

「潤」

「何をうろうろとしているんだ」

「ああ、いや……」

「葵ちゃんは?」

「いま食事に行ってる」

「食事?」

「ああ、披露宴で緊張していたんだろう。食事に全く手をつけていなかったから」

「そうだろうな」





潤は、披露宴を取り仕切り、二次会の打ち合わせもし、景品の用意までを全てこなしていた。葵とは、何度か打ち合わせで顔を合わせている。





「潤、仕事の合間をぬって色々ありがとう、助かった」

「あたりまえだろ? 水臭い事を言うなよ」

「ああ」

「葵ちゃんさあ、わりと胸があったな。小柄なのに、ギャップがいいじゃないか。ん? 仁」

「お前! 何を見てた!」

「葵ちゃんの全て」

「この!」





仁は潤の胸倉をつかみ、怒る。





「おい、おい、俺流のお祝いよ。そう、怒りなさんな」

「今度言ってみろ、殴るからな」

「わかったよ」

「お待たせしました。あれ? どうかしたんですか?」





二人で話をしていたとき、葵が顔をだした。

胸倉をつかむ仁に掴まれる潤。不思議がるのも当たり前だ。





「スーツを直してもらってたんだよ。な? 仁」

「あ? ああ、そうだ。ちゃんと食べてきたか?」





仁は潤のスーツから手を離し、パンパンとヨレを直す。





「はい、すみませんでした。潤さん、色々とありがとうございました」





葵は潤に向かって、頭を下げた。

そう、屈むな、胸の谷間がもろ見えだ。仁は気が気じゃない。潤の言葉が気になり、潤の視線を気にする。





「いいさ、葵ちゃん。これからは親戚だ。よろしく」

「こちらこそ宜しくお願いします」





潤は自然に手を差し出し、握手を求めた。葵は慣れていないが、差し出された手を取り、握手をした。そして貴族の挨拶かのように手にキスをした。





「え? あの」

「潤! 何をした」





すかさず仁は二人を離し、仁の後ろに葵を隠した。





「何って、挨拶だろ? ただの純粋な挨拶、お前もするだろ?」

「え?」





葵は、仁の背中側から驚いた顔をする。





「潤! 誤解を招くようなことを言うな! そんなことはしないぞ、俺は」

「そうだっけ? まあ、いいや、後でね、葵ちゃん」

「はい」





二人の間をひっかきまわして潤は、二次会の会場に消えた。





「全く、碌な事を言いやしない。疲れてないか? これから二次会だが、大丈夫か?」

「あ、はい。大丈夫です」

「あと少しだ、がんばろう」

「はい」





覚悟の結婚。葵は腹をくくって結婚式に臨んだが、全くの別世界に入り込む。披露宴で分かったが、出席者は名だたる企業のトップだけではなく、政界からの出席者がいたのだ。仁は、葵をそのままでいてくれたらいいと言ったし、仕事も辞めなくていいと言った。そんなことが通用するのだろうかと、考えずにはいられなかった。