店に入ると、京都を思わせる風情で、都会の中心と言うことを、忘れてしまうほどだ。案内されるまでの途中、中庭があり、小さいながらも、見事な日本庭園だった。

女将に案内され部屋の前に着いた。



「失礼いたします」





 女将が入る前に声を掛ける。

 女将を先頭に、義孝、恵美子、葵の順で入っていくと、既に、見合いの話を持ってきた部長の中村が中心に、両側に立花家と見合い相手、名波家の面々が向かい合って座るようになっている。

畳敷きの和室で、膳が既に置かれていた。





 「遅くなりまして、申し訳ございません」





義孝は、儀礼的な挨拶をする。見合い相手の、名波仁と両親は、立ち上がって立花家を迎えた。





 「立花君、堅苦しいことは言わず、こちらへ」



中村は、手招きをするように、中に入るように促す。

 お代官様を前に、頭を垂れて歩く平民の様に、三人はいそいそと歩き、見合い相手の前に座った。

葵の勤めるホテルでも、見合いは頻繁に行われるが、広報部に所属している葵が、見合いの現場を見ることはない。話しには聞いていたものの、実際に見て、体験するのが、自分の見合いになるとは、思っても見なかった。





 「では、早速ではありますが私からご紹介を致します。こちらの方は名波 仁さん。両隣にお座りはご両親です」





 仲人をしている、義孝の上司、部長の中村は慣れた口調で紹介を始めた。





 「名波 仁です。よろしくお願い致します」



仁が挨拶をすると、父親、母親も同じように頭を下げた。

 葵はしおらしくしているつもりはなかったが、向かい合って座る仁をまともに見られず、席についてからというもの、ずっと俯いている。

 普通のサラリーマンと聞いていたが、落ち着いた貫禄のある低く響きのある声をしていた。役職についているのではないかと、葵は、推察した。

 仁が挨拶すると、両親も合わせて頭を下げた。仁は、仕立ての良いスリーピースのスーツを着ていた。父親はダブルのスーツに母親は恵美子と同じく訪問着を着ている。





 「で、こちらが、立花 葵さんです」



中村が、葵を紹介する。





 「た、立花 葵です。あの、よろしくお願いいたします」



 葵の挨拶がすむと、義孝、恵美子も同時に頭を下げた。

 どうせ断るのだから、気楽に行こうと言っていたのに、いざその場にいると、緊張する。喉が渇き、お茶に手を伸ばしたくなる。





 「まあ、緊張するなと言う方が無理ですが、お見合いの場なので、お互いに聞きたいことをお話ししていただいて、和やかな場にしたいと思っております。何か、質問などは?仁さん、ございませんか?」





 中村は最初に、仁に話を振った。