「それを、言わないで。今、頭の中で整理をしているんだから」

「何とかなるわよ。いざとなったら、名波さんがフォローをしてくれるって」

「うん」

「葵、本当に綺麗よ……幸せになれるおまじない……いろいろあるのは分かっているわ。でも絶対に大丈夫、名波さんなら大丈夫」





そう言うと、久美は葵をしっかりと抱きしめた。





「久美……」





ここに行きつくまで久美は何かと葵を励まし、アドバイスをした。同期で良きライバル。堪えていた涙が一筋流れた。





「ほら、笑って。二次会では私も名波さんばりの御曹司をゲットするんだから。協力してよ?」





そう言うと久美はハンカチで葵の涙を拭った。

久美が、後部座席のドアを開き、ドアの上に手をかざし、頭をぶつけないように葵を車に乗せる。続いて母親の恵美子が乗り込んだ。車には既に、義孝と双子の弟が乗っていた。白無垢姿の姉である葵を見ると、はしゃいでいた双子は、大人しくなった。

ドアを閉めると、窓を開けて、久美に礼を言った。





「ありがとう」

「行ってらっしゃいませ」





久美は姿勢を正し、ホテルのお客様をお見送りするように、最高のお辞儀をした。





「行ってきます」





車は、ゆっくりと神社へと走り出した。





「おー、姉ちゃん。孫にも衣装だ」





弟達は口をそろえて憎たらしい口をきいた。

神社に向かうまで、いつものように、賑やかにしんみりすることなく移動することが出来て葵はホッとしていた。葵が泣いてしまうだろうと弟達は分かっていたのだろう。いつもよりもふざけている様子から、葵はそう受け止めた。そんな心遣いが嬉しかった。



神社に着くと、仲人が迎え、手を引かれながら、控室に入った。

親族は式の式次第を確認するために、先に本殿に向かった。葵は一人、控室に残り、緊張をほぐそうと、深呼吸を繰り返していた。



頭の中で、式次第を整理していると、ドアをノックする音が聞こえ、返事をした。





「はい」





ドアの方を向くと、にっこりと笑った黒留袖姿の綾が、ひょっこり顔を出す。





「お姉さん」





立ち上がろうとする葵を、座っててといい、椅子を葵の向かいに移動して、座った。





「葵ちゃん、とってもキレイ」

「お姉さんの方が……」

「ううん……私は、大柄で着物が似合わなかったの。それに鬘をかぶったら主人の身長を追い越してしまって、和装は断念したのよ」





綾は、葵を羨ましそうに見た。





「そうだったんですか」

「まあ、その分ドレスを奮発して、衣装替えも5回したけどね」





彼女はお茶目に舌をちょこんと出した。





「葵ちゃん」





居住まいを但し、葵を真剣な目で見る。





「仁の事。よろしくお願いします。イラつくほど、口数が少ないし、仕事人間。ぶっきらぼうで、不器用な弟だけど、誠実で嘘はつかない男です。末永くお願いします」





綾は、深々と頭を下げた。





「あの、頭を挙げてください。私こそ、よろしくお願いします……あああ……」





鬘をかぶっていたことを忘れ、思い切り頭を下げてしまうと、想像以上に頭がガクンと下がり、葵は慌てた。







「葵ちゃん、大丈夫?」





綾も慌てて立ち上がり、葵の肩を支えた。





「すみません」





二人は顔を見合わせ、思わず、大笑いをする。すると、ドアをノックする音が聞こえた。