朝からスイートルームは賑やかで、弟達は、ホテルでレンタルした礼服に着替え、髪を念入りにセットしている。服装よりも、髪型を優先する。いつもなら、洗面台の鏡を取り合っている二人だが、そんな必要な全くないスイートルームで、お互いにモデルのようなポーズを取りながら、写真を撮ってスマホに納めていた。





「じゃ、支度に行くね」





葵は花嫁衣装に、恵美子は留袖を着付けて貰うために、美容室に向かった。

二時間程で葵も支度が終わり、鬘の重さで、首が思うように動かせず、着物の締め付けと重さで、誰かの支えがないと動きが取れなかった。





「本当に格式の高い着物ね。私も着付け師をして長いけれど、滅多にお目にかかれる着物じゃないわ、すてきよ、立花さん。幸せ者ね」





薄っすらと額に汗をかいている着付け師は、かなり年配の女だ。その着付け師が着物を褒めると、鬘で思うように頭を動かせない葵は、頭を少し頷けただけだった。





「葵、とても綺麗よ。お母さんの結婚式を思い出しちゃうわ」

「そう言えば、お母さんは綿帽子じゃなかったね。角隠しって言うの?」

「そう。お母さんの時は自分の意見がなかなか通らなくてね。おばあちゃんがこれにしなさいって、写真で見せたことのあるお着物になったのよ。いいわあ、綿帽子」





恵美子は羨ましそうに葵の綿帽子をつんつんと触った。





「でも、お母さんの着物もすてきだったよ」

「そお?」





葵に褒められて恵美子もまんざらではなかった。

恵美子に引手をしてもらい、美容室を出ると、ホテルの仲間が「おめでとう」と拍手で迎えた。式を挙げる前に込み上げてくるものがあった葵だが、化粧が気になり、何とかぐっと涙を堪えた。

「ありがとう」とおしとやかに軽く会釈をして、仲間の傍を通り過ぎる時、久美が広報部から持って来た一眼レフのデジタルカメラを持って、支配人に声を掛ける。





「支配人! すみませんけど、立花さんと写真を撮って貰えます?」





ホテルとしての一大イベントになってしまった、名波グループ御曹司と、ホテル従業員でもある葵の結婚式に、支配人は大層気合が入っていたのだ。葵の付き人のように、何処に行くにもつかず離れず傍にいた。

支配人が、久美からカメラを受け取り、配置の指示をする。どうにかアングルが決まったところで、シャッターを切った。





「立花さん、披露宴は皆で盛り立てさせてもらうよ。心配は無用だからね」





支配人は、意気揚々として言った。





「ありがとうございます。支配人」

「立花さん、時間だ、ロビーに車が来ているよ」





久美が、先頭に立ち、キビキビと手配をする。ロビーの車寄せまで、一緒に付いて来ていた。





「葵、緊張もするだろうけど、順番を間違えないでね」





久美は式次第の流れを言っている。リハーサルをしても、葵は順番を間違え、久美に指導されていたのだ。