紆余曲折を経て、準備もなんとか整い、今日は葵の引っ越しの日。家族総出で荷物を運び出す。仁の住んでいるマンションに引っ越すのだが、当主は仕事だ。「仕事で立ち会えない。悪い」と短い文面のメールが来て、それで終わっていた。期待はしていなかったが、なんだか寂しく思っていた。





「姉ちゃん、ここにあるだけ?」





翔が積んであるダンボールを指して聞いた。





「そうそう、そこにあるだけだから。あと大きな家具は必要ないから、業者の人に処分してもらう分」

「服ぐらいなんだな、持って行くの」

「全部、名波さんが用意してくれたからね。家の中も全部」

「金持ちは違うな」





用意をしたのはいいが、葵の好みはない。全て、インテリアデザイナーにコーディネートをしてもらったのだそうだ。考える時間が楽しいのにそれもできなかった。仁は良かれと思ってしたことだったが、葵にとってはそうではない。もう済んだことだ、文句は言うまいと、口をつぐんだ。





「あんた達が来ても泊まれる部屋はたっぷりあるから、遊びに来てよ」

「えー、庶民が緊張するな」

「庶民、庶民って言わないの。楓、テレビばっかり見てないで、翔と一緒に手伝ってよ」





寝転んで手伝う気がない楓に、葵はお尻を叩き、起こした。楓は、いてっと尻を摩る。





「だって、業者の人がいるじゃん」

「玄関まで運べばいいの。それくらい出来るでしょ? 家具を運べと言っているわけじゃないんだから」

「へいへい」





だらだらと寝そべっていた楓を使い、部屋から荷物を運び出す。それを業者がトラックに運び込む。最後に処分してもらう家具を運び出して、完了した。

会社が倒産した時、団地に入る程度の家具に絞ったためか、そんなにかさばる物は無かったが、女の荷物は意外に多い。部屋から荷物を運び出せば、ガランとしてしまって寂しくもあった。

家具が無いのだから、家族で引っ越しは出来ると仁に言ったが、心配をしたのか、わざわざ業者を手配した。ダンボールしかない引っ越しで、葵は業者に申し訳なく思ってしまった。





「すっきりしたけれど、寂しいものね」





がらんとした葵の部屋を、恵美子と葵は並んで眺めた。葵は、開けた窓を閉めながら、





「お母さんが使えばいいじゃない」

「そうだけど」

「さ、車にのって、今度はマンションだよ」





使えないとにらんだ弟達は置いて、葵と恵美子でマンションに向かった。

マンションについて、早速、業者は搬入を始めた。家具はないけれど、高級マンションだ。傷をつけたら大変な賠償になる。手際よくエレベーターなどに養生をして、エレベーターに運んだ。

葵と恵美子は先に部屋に入り、業者に指示をした。