結婚するとは非常に疲れることだと改めて思う。決めることがありすぎて、葵は投げ出したくなっていた。しかし、単純な物で、仁が、自分と会いたいと言ってくれたことで、葵の心は、軽くなっていた。だが、準備は大変で、仕事と準備、仕事に準備と、準備に日々追われていた。
「疲れる……」
デスクに突っ伏して深いため息をつく。
隣に座っていた久美がそんな葵に声を掛ける。
「玉の輿にのるお嬢さん、どうされました?」
「ドレスの打ち合わせだけでもう、5回もデザイナーさんと会って、それからホテルの衣装部で白無垢と打掛の衣装合わせ。そうだ鬘合わせもしたんだった。デザイナーさんには会うたびに痩せたといわれて、仮縫いになるからこれ以上の増減は禁止と言われたし」
「確かに痩せたよね」
「胸からね」
はぁーっと、大きなため息を吐く。
「ケンカ後のデートから、会ってないの?」
「会ってなーい」
わざわざ久美に報告するつもりはなかったが、デートの翌日に出勤すると、目ざとい久美が指摘した。
完全に打ち解けたわけではなかったが、東京タワーデートは、葵にとって、仁と結婚するにあたり、生活していく自信に繋がったのは確かだ。
展望から眺める都心の夜景。気取らないファミレスの食事は、頑なになりつつあった葵の心を、和らげるには十分だった。
「イケメンはつれないねえ」
久美は、おばさんのように首を横に振って、パソコンのキーを叩いた。
ホテルの衣装部は、新しい白無垢と打掛を用意していた。これにはびっくりしたが、仁側が「すべてオーダーで」と言う突拍子もないことを言い出し、それをなんとか阻止出来ただけでもよしとした。仁の母理恵には、ホテル側がオーダーレンタルという形をとり、新品を用意すると説明してくれ、納得させた。
「で、どこまで進んだの?」
少なからず、玉の輿にあこがれている彼女は、さりげなくも、ずうずうしく深く聞きたがる。根掘り葉掘り聞かれることは、悪い気がしない。
しかし、結婚までの経緯が複雑で、気持ちが浮いてこない。久美が結婚情報誌からドレスを見せても、可愛く綺麗に映るが、心に突き刺さる物が無かった。
「披露宴はあちらにお任せだし、ましてこのホテルでやるじゃない? 上流階級の感覚は私には分からないし、結婚式は私の希望を叶えて神前式にしてくれたから、まあいいけどね」
「うちのホテルも久しくなかった派手婚だから張り切っているし、楽しめばいいよ。一生に一度のことなんだからさ」
「……そうね」
一生に一度。本当にそうなっていればいいが、読めない仁が夫となることが、一度では済まないのではないかと、思ってしまっていることを、久美には言えない。
「招待客だって半端じゃないものね。披露宴並みの二次会の招待客。二次会じゃないねこれは」
「そうでしょ? 私の友達も招待するけど、端で小さくなってそう」
「ありえる」
決めることは、まだまだたくさんある。ケンカをして仲直りをしたが、仁は相変わらず仕事ばかりだ。視線を仕事道具のパソコンに移して、キーを叩き始めるが、ミスタッチばかりだ。バックスペースを何度も叩き、先に進まない。デートは楽しかったし、心揺さぶられた。
仁の隣に寄り添い歩くことも心地が良かった。さりげなく手を握られた時、今までにないほど心臓が波打った。その心の高鳴りは嘘じゃないが、準備という現実に目を向けると、また自分ばかり苦労していると、仁を責めたくなる。そんなせめぎあいが続く。
男の人はそうなのだろうか? 別に、葵も結婚式をしたいわけではない。いや、正確には披露宴だ。結婚式は子供の頃から白無垢が着たいとの夢があったけれど、その他のことは考えたことはない。それでも、進行具合など気にならないのか、また全く連絡もしてこない。これでは結婚まえから先行き不安で、どうにかなってしまいそうだ。
「パソコンが壊れるわよ、 花嫁さん」
「だって……」
「女が一度腹をくくって決めたこと。重苦しいことばかり考えないで楽になんなさい」
久美にはおみとおしらしい。
「分かってる」
「私が結婚する時は、完全な引き算で式や衣装をきめるのよ? 分かる? 引き算。それに比べたら葵は青天井。分かる? この違い」
「う……」
「庶民と金銭感覚が違うのは仕方がないの。ありがたく受け止めて贅沢しなさい」
「贅沢ねえ……」
贅沢な悩み。そうなのかもしれない。名波家に贅沢で金の掛かる嫁だと思われたくないと思っていたのも事実だ。葵は、物思いにふけった顔していた。
「疲れる……」
デスクに突っ伏して深いため息をつく。
隣に座っていた久美がそんな葵に声を掛ける。
「玉の輿にのるお嬢さん、どうされました?」
「ドレスの打ち合わせだけでもう、5回もデザイナーさんと会って、それからホテルの衣装部で白無垢と打掛の衣装合わせ。そうだ鬘合わせもしたんだった。デザイナーさんには会うたびに痩せたといわれて、仮縫いになるからこれ以上の増減は禁止と言われたし」
「確かに痩せたよね」
「胸からね」
はぁーっと、大きなため息を吐く。
「ケンカ後のデートから、会ってないの?」
「会ってなーい」
わざわざ久美に報告するつもりはなかったが、デートの翌日に出勤すると、目ざとい久美が指摘した。
完全に打ち解けたわけではなかったが、東京タワーデートは、葵にとって、仁と結婚するにあたり、生活していく自信に繋がったのは確かだ。
展望から眺める都心の夜景。気取らないファミレスの食事は、頑なになりつつあった葵の心を、和らげるには十分だった。
「イケメンはつれないねえ」
久美は、おばさんのように首を横に振って、パソコンのキーを叩いた。
ホテルの衣装部は、新しい白無垢と打掛を用意していた。これにはびっくりしたが、仁側が「すべてオーダーで」と言う突拍子もないことを言い出し、それをなんとか阻止出来ただけでもよしとした。仁の母理恵には、ホテル側がオーダーレンタルという形をとり、新品を用意すると説明してくれ、納得させた。
「で、どこまで進んだの?」
少なからず、玉の輿にあこがれている彼女は、さりげなくも、ずうずうしく深く聞きたがる。根掘り葉掘り聞かれることは、悪い気がしない。
しかし、結婚までの経緯が複雑で、気持ちが浮いてこない。久美が結婚情報誌からドレスを見せても、可愛く綺麗に映るが、心に突き刺さる物が無かった。
「披露宴はあちらにお任せだし、ましてこのホテルでやるじゃない? 上流階級の感覚は私には分からないし、結婚式は私の希望を叶えて神前式にしてくれたから、まあいいけどね」
「うちのホテルも久しくなかった派手婚だから張り切っているし、楽しめばいいよ。一生に一度のことなんだからさ」
「……そうね」
一生に一度。本当にそうなっていればいいが、読めない仁が夫となることが、一度では済まないのではないかと、思ってしまっていることを、久美には言えない。
「招待客だって半端じゃないものね。披露宴並みの二次会の招待客。二次会じゃないねこれは」
「そうでしょ? 私の友達も招待するけど、端で小さくなってそう」
「ありえる」
決めることは、まだまだたくさんある。ケンカをして仲直りをしたが、仁は相変わらず仕事ばかりだ。視線を仕事道具のパソコンに移して、キーを叩き始めるが、ミスタッチばかりだ。バックスペースを何度も叩き、先に進まない。デートは楽しかったし、心揺さぶられた。
仁の隣に寄り添い歩くことも心地が良かった。さりげなく手を握られた時、今までにないほど心臓が波打った。その心の高鳴りは嘘じゃないが、準備という現実に目を向けると、また自分ばかり苦労していると、仁を責めたくなる。そんなせめぎあいが続く。
男の人はそうなのだろうか? 別に、葵も結婚式をしたいわけではない。いや、正確には披露宴だ。結婚式は子供の頃から白無垢が着たいとの夢があったけれど、その他のことは考えたことはない。それでも、進行具合など気にならないのか、また全く連絡もしてこない。これでは結婚まえから先行き不安で、どうにかなってしまいそうだ。
「パソコンが壊れるわよ、 花嫁さん」
「だって……」
「女が一度腹をくくって決めたこと。重苦しいことばかり考えないで楽になんなさい」
久美にはおみとおしらしい。
「分かってる」
「私が結婚する時は、完全な引き算で式や衣装をきめるのよ? 分かる? 引き算。それに比べたら葵は青天井。分かる? この違い」
「う……」
「庶民と金銭感覚が違うのは仕方がないの。ありがたく受け止めて贅沢しなさい」
「贅沢ねえ……」
贅沢な悩み。そうなのかもしれない。名波家に贅沢で金の掛かる嫁だと思われたくないと思っていたのも事実だ。葵は、物思いにふけった顔していた。



