「子供の頃行ったきりだ、東京タワー」

「覚えてます?」

「意外と覚えてる。やっぱり、あの高さからの東京が、凄く印象に残ってる」

「同じです」





ケンカを引きずるのは良くないと思っているのか、つとめて普通に会話をする。





「昨日はごめん」





葵に謝る仁を、驚いた顔で見た。





「君に甘えてた。本当に悪いと思っている」

「そんな風に何度も謝られたら、私の方が意地悪みたい」

「そうじゃない」

「……本当に後はドレスだけですし、引き出物はお義母様が仕切ってくださっているから、私は、自分の職場の仕切りを確認するだけで、なにも大変なことはありません。少し意地になってただけですから、こちらこそごめんなさい」





それを聞いた仁は、路肩に車を止めた。ハザードランプを付け、サイドブレーキを引く。





「結婚は、大切な行事だ。それを君と家族まかせにし、何もしなかった。どこか君に甘えていたんだ。反省している」

「もういいです。そんなに謝られたら、怒った私が子供みたいに……」

「ちがう」





仁は葵の言葉を遮った。





「二人で協力する最初の大事なことなのに、ないがしろにしたんだ。君が怒って当然だ」

「……」





仁と葵は、暫く見つめ合ったまま、黙っていた。





「名波さんの気持ちは受け取りました。もう謝らないでください。今日は、誘ってくれて嬉しかったから」





葵は素直に気持ちを言った。その言葉を聞いた仁は、愛おしく葵を見る。

ぶつかっていた視線を葵から外し、正面を見る。仁は、ハンドルを握り、車道を走る車と合流した。緊張と、怒っていて許せない気持ちが混ざった、複雑な心情だった葵の表情は、和らいでいる。口の端は僅かに上がり、笑っているように見えた。仁は運転しながら、何度も何度も葵の様子を見る。恋愛感情なく結婚する二人だが、少しずつ、恋が動き出しているようだ。





「俺も会えて嬉しかった」





暫く時間が経ってから気持ちを言う仁が、あまりにも仁らしいと、葵は笑った。