重い足取りで家路につくと、何もしたくないという虚無感が葵を包み、キッチンに立って葵の夕食を温めている母親を見て、ソファに倒れ込む。続けているアルバイトは、シフトを抑え、今月で辞めると店に伝えてあった。式の打ち合わせが予想以上にタイトになり、葵自身の体力が持たないことが原因だった。いずれは辞めるアルバイトだったのだ。それが少し早くなっただけだ。そんな葵を見ながら、晩酌をしてた義孝が口を開く。
「葵、お父さんの借金な、全て名波さんが支払ってくれたよ」
「な、なんで?」
義孝の言ったことにびっくりした葵は、勢いよくソファから起き上がり、テーブルに座っている義孝の前に座る。
「無くなったわけじゃないぞ。今のままだと利子だけを返済しているような状況だ。だから名波さんに、利子なしで返済することになったんだ。正直、肩の荷が降りてホッとしているよ」
家のローンと違い、倒産した借金は義孝の歳ではかなりの負担だったのだろう。恵美子や葵、弟達までもバイトをして返済していたのだから、父親としてなんとかしたいと言う気持ちは当然あったのだ。酒の入ったグラスを持って、深く頷く。
「返済はあっても利子が無くなっただけ楽だわ」
母親の恵美子も心底安堵したようだ。複雑な心境の葵であったが、安心した顔の両親を見て、葵の表情は和らぐ。
しかし、ケンカした矢先の借金返済。気まずさは、更に深まる。和らいだ葵の表情は、曇る。これからの生活は、すべて受け身にならなければいけないのだ。
義孝の報告を聞いて、その夜、葵は仁に電話を掛けた。
「絶対に私から電話なんか掛けないと決めたのに」
手に持ったスマホとにらめっこしながら、その手は次のステップを踏めずにいる。
「もう、悔しいな……」
自分が折れるようで悔しさをにじませたが、ケンカの原因と借金返済は分けて考えなければいけない。言い聞かせるように、葵は、仁に電話を掛けた。
『もしもし? どうかした?』
ワンコールで電話に出た仁は、葵からの電話に、緊張しているような声で返事をした。
「あ、今大丈夫ですか?」
『あ、うん』
少し耳を澄ませた葵は、仁の背後に物音がしないことで、仕事中なのだと、察した。
「お忙しいのにすみません。父から聞きました。借金を返済していただいたそうで。なんとお礼を言ったらいいか、本当にありがとうございました。完済はきちんといたしますので、本当にありがとうございました」
「いや……」
仁にきついことを言ってしまった後の会話で、葵は、苦しさと気まずさから、黙ってしまっている。仁からの返事も変わらず短い。これ以上の会話は無駄だと感じた葵は、要件を伝え電話を切ることにした。
「お忙しいときにすみませんでした。お礼だけお伝えしようと思っただけなので、これで失礼します」
早々に電話を済ませ、切ろうとしたとき、仁がそれを止めるように言った。
『あ、待って!』
耳からスマホを離していた葵だが、仁の声が聞こえ、再度耳に充てる。
「はい?」
『明日、仕事が終わったら会えないだろうか』
「あの、先日は、私が言い過ぎました。気になさらないでください」
散々言った後に、誘われても、素直には受け取れない葵は、少々、冷たい言葉で返した。
『違う、俺が会いたいんだ』
「分かりました。定時で上がる予定ですので、時間と場所をあとで連絡してください」
何故だか、事務連絡になっているのは、致し方ないことなのか、仁と話をしていると、自然とそうなってしまう葵だ。
『分かった』
「じゃあ、おやすみなさい」
『おやすみ』
電話を切って、葵は、
「やっぱりずるい」
と言った。
「葵、お父さんの借金な、全て名波さんが支払ってくれたよ」
「な、なんで?」
義孝の言ったことにびっくりした葵は、勢いよくソファから起き上がり、テーブルに座っている義孝の前に座る。
「無くなったわけじゃないぞ。今のままだと利子だけを返済しているような状況だ。だから名波さんに、利子なしで返済することになったんだ。正直、肩の荷が降りてホッとしているよ」
家のローンと違い、倒産した借金は義孝の歳ではかなりの負担だったのだろう。恵美子や葵、弟達までもバイトをして返済していたのだから、父親としてなんとかしたいと言う気持ちは当然あったのだ。酒の入ったグラスを持って、深く頷く。
「返済はあっても利子が無くなっただけ楽だわ」
母親の恵美子も心底安堵したようだ。複雑な心境の葵であったが、安心した顔の両親を見て、葵の表情は和らぐ。
しかし、ケンカした矢先の借金返済。気まずさは、更に深まる。和らいだ葵の表情は、曇る。これからの生活は、すべて受け身にならなければいけないのだ。
義孝の報告を聞いて、その夜、葵は仁に電話を掛けた。
「絶対に私から電話なんか掛けないと決めたのに」
手に持ったスマホとにらめっこしながら、その手は次のステップを踏めずにいる。
「もう、悔しいな……」
自分が折れるようで悔しさをにじませたが、ケンカの原因と借金返済は分けて考えなければいけない。言い聞かせるように、葵は、仁に電話を掛けた。
『もしもし? どうかした?』
ワンコールで電話に出た仁は、葵からの電話に、緊張しているような声で返事をした。
「あ、今大丈夫ですか?」
『あ、うん』
少し耳を澄ませた葵は、仁の背後に物音がしないことで、仕事中なのだと、察した。
「お忙しいのにすみません。父から聞きました。借金を返済していただいたそうで。なんとお礼を言ったらいいか、本当にありがとうございました。完済はきちんといたしますので、本当にありがとうございました」
「いや……」
仁にきついことを言ってしまった後の会話で、葵は、苦しさと気まずさから、黙ってしまっている。仁からの返事も変わらず短い。これ以上の会話は無駄だと感じた葵は、要件を伝え電話を切ることにした。
「お忙しいときにすみませんでした。お礼だけお伝えしようと思っただけなので、これで失礼します」
早々に電話を済ませ、切ろうとしたとき、仁がそれを止めるように言った。
『あ、待って!』
耳からスマホを離していた葵だが、仁の声が聞こえ、再度耳に充てる。
「はい?」
『明日、仕事が終わったら会えないだろうか』
「あの、先日は、私が言い過ぎました。気になさらないでください」
散々言った後に、誘われても、素直には受け取れない葵は、少々、冷たい言葉で返した。
『違う、俺が会いたいんだ』
「分かりました。定時で上がる予定ですので、時間と場所をあとで連絡してください」
何故だか、事務連絡になっているのは、致し方ないことなのか、仁と話をしていると、自然とそうなってしまう葵だ。
『分かった』
「じゃあ、おやすみなさい」
『おやすみ』
電話を切って、葵は、
「やっぱりずるい」
と言った。



