「送っていく」

「結構です」

「送っていく……少しでも君といたいんだ」





仁のこの一言が、葵の心に刺さった。





「ずるい……」





言葉数が少ない男が言うと、心に刺さる。怒りをぶつけた自分が、駄々をこねた子供の様に感じる。葵は、ポロリとそんなことを言った。

仁に負け、送ってもらうことを選択した葵だったが、怒りがおさまったわけじゃない。拗ねた子供の様にそっぽを向き、ずっと外を見る。

初めてのケンカだった。葵が一方的に怒ったことでもあるが、自分の気持ちを素直に表したのは、初めてだ。後味が悪くもあったが、少し距離が縮まったと感じていた。

気まずい雰囲気の中で、葵の自宅に着く。





「ありがとうございました。気を付けて帰ってください」





葵は、仁の顔を見ることなく、車のドアに手をかけて、降りる。それと同時に仁も車から降りた。足早に離れていく葵の前に走って行き、前に立ちふさがる。





「今、詰めに入っている案件がある。それを処理すれば、時間が取れる。あ、いや違う。その……」





表現が下手な仁は、髪をくしゃくしゃにして、葵に伝える言葉を探す。





「いま、このこの仕事を終わらせておかないと、一緒に居られる時間が取れない。それは絶対に避けたい。打ち合わせは申し訳ないと思っていた。それに、無責任だとも思っている。ごめん、悲しい思いをさせてしまって」





仁は葵に頭を下げた。





「もういいです。後はドレスの打ち合わせだけの様ですから。名波さんに来ていただいてもしょうがないですし……ごめんなさい……今は、何を言われてもいい方に受け取れません……送ってくださってありがとうございました。……心配なので、ご自宅に着いたら連絡してください。失礼します」

「……」





葵は、頭を軽く下げ、仁の横を通って、歩いて行った。すぐに振り返った仁だったが、引き止めることはしなかった。