「では、何点かデザインを致します。今、葵さんにお会いしてデザインが浮かびましたし。その中から、お選びください。それでいいですか? 綾さん」

「私はもちろん構わないわ。主役は葵ちゃんだもの」

「あ、は、はい。私も」





結局、主導権を握り、女性ならではのこだわりを追求してデザイナーと細かい打ち合わせをしたのは綾だった。葵はただただ隣でうなずいているだけであった。

綾と沙織が昔話に花が咲いている時、葵はふと思った。仁はどんなデザインのドレスが好きなのだろうという事だ。見合いから現在に至るまで、結婚についての話はしても、お互いのことは全く知らない。仕事が忙しいとは言っても、結婚のことだ。こんなに人任せでいいのだろうか。口数も少ないし、感情も表に出ない仁は、葵にとって、苦手な分類に入る。そんな人と結婚をするのだ、嬉しいはずのドレスも、考えるのが面倒になって、綾に気づかれないように、小さなため息が、何度も出ていた。





「暫く日本にいるの。何かあれば電話して。葵ちゃんのドレスをお願いしますね」

「はい。世界に一点しかない素敵なドレスをデザインさせて頂きますわ」





そう挨拶すると、三人はソファから立ち上がった。

葵の気持ちを余所に、どんどん式に向かって話が進みだす。不安を感じている暇などなく、時間が猛スピードで過ぎていく。見合いで、両思いではない結婚は、急な流れにまかせて進めてしまった方がいい。いろいろと考えなくて済む。何か、違うような気もしているが、もう、結婚へと走りだしてしまっているのだから、それが一番いいのだ。





「さあ、葵ちゃん。食事でもする? お腹空かない?」

「は、はい」

「お寿司でも食べない? 日本のお寿司が恋しくて。いいかしら?」

「はい、もちろん」





ショップの前で綾から提案され、特に反対意見もないので、それに従う。二人きりで食事をして会話の話題があるだろうかと、心配になったが、食欲には勝てず綾に付いて行く。

綾は車で来ていると葵に言い、近くの駐車場まで歩く。綾はヒールを履いているが、身長は175cmを軽く超えている。葵とは、一緒に歩いていても、歩く歩数が違う。綾の一歩は、葵の三歩ほどにもなる。ゆっくり歩く綾に、葵は、自然と小走りになるのは仕方がない。

程なくして、車を止めてある駐車場に着くと、綾はキーを車に向けて解除をする。車のハザードランプが点き、所有する車の存在を知らせる。その車は、シルバーのスポーツカー。子供でも知っているメーカーだ。綾には似合い過ぎて、雌豹を操る調教師の様に見える。