「いらっしゃいませ」





タイミングを見計らったように、店員がお茶を持って来た。葵は思わず立ち上がって挨拶をしてしまい、綾に失笑される。やってしまったと、顔をしかめつつ、葵は腰を下ろす。





「早速ですが、どんなデザインがいいかしら?」





デザインノートを開くと、濃い芯の鉛筆を持ち、人型を描き出す。





「さあ?」





綾に助けを求めるように、首を隣に座っている綾に傾げる。





「葵ちゃん、女の子なら一度はこんなドレスが着てみたいと思ったことがあるでしょう?」

「あのう……オーダーで購入するんですか? レンタルじゃなくて?」





すっかりレンタルだと思い込んでいた葵は綾に耳打ちする。





「仁と母からは、そんなこと聞いてないし、デザインから起こしてもらうに決まっているでしょ? 葵ちゃん」





綾は、葵さんから葵ちゃんに呼び方が変わっていた。

そうなんだ。買うんだ。と葵は頷く。





「あのー、裾が長いのがいいです」





綾が全てを率先してくれるのだろうと、葵は、何も考えることなく、店に来ていた。咄嗟に言われ、頭に浮かんだデザインを、言葉にしている。





「他には?」

「うーん、あの、すみません……何も考えていません。正直、お店にあるドレスを選ぶと思っていたもので……自分に似合えばいいかなくらいの感覚でいました」





葵は、申し訳なさそうに言った。





「まあ! 選ぶだけだと、仁がそう言ったの?」

「あ、いいえ、そうではなく、私がそう思っていただけです」

「いいのよ、葵ちゃん、女が最高に綺麗になるときですからね。遠慮なんかしないで、自分の意見をどんどん出して沙織さんに伝えて? 沙織さんどんどんデザインして」





長いまつ毛がくるりとカールした目を、最大限に大きくして驚く。





「畏まりました」





葵も女だ。結婚式に憧れ、ドレスを着て愛する男と挙式を挙げる夢はあった。しかし、言えない現実があるのだ。逆に、綾は、結婚式に着るウエディングドレスの要望がない葵を不思議に思っていた。

綾は、沙織と共に、生地選びから打ち合わせをしていた。こだわりぬいた生地選びに費やした時間は、相当な物だった。そんな自分とは正反対の葵に、首を傾げた。



まだ結婚は先のことだと思っていた葵だが、なんの覚悟もないままで結婚することになるとは、想像もしていなかったことで、ホテルで行われる結婚式を、何度も羨ましく見てきたが、今は、憧れの気持ちも失せてしまっていた。降ってわいた自分の結婚に、ドレスはどんなのがいいかと聞かれても、答えられないのは当たり前と言うものだ。葵の顔には、憂鬱な暗い影が出来ている。



まして、この高そうなショップのデザイナーの前で、他の雑誌を見せて、こんなデザインがいいとは言えない。結婚するときの準備は、それぞれが出し合うもの、折半しながら結婚式をするのが、一般的だ。名波側は、葵には一切の負担をさせず、式の準備を進めた。仁は、それが葵に対する、誠実さと思っているが、逆に肩身の狭い思いをしているとは、思っていない。全額負担してもらっていれば、希望のデザインなど言えるわけがなく、葵は、任せると言うしかない。願わくは、勝手にデザインをしてもらって、店を出ることが出来たら申し分ない。