後日、理恵から連絡があり、葵は指定された待ち合わせ場所に立っていた。





「葵さん?」





頭のてっぺんから葵を呼ぶ声が聞こえた。声のする方に顔を上げると、サングラスをかけ、綺麗にカールした髪を掻きあげる女性がいた。仁の姉の綾だ。

タイトスカートにスラリと伸びた脚。ピンヒールのかたちの良いパンプス。綾の身体を下から上に視線を移しながら、葵は観察するように見た。足の先から頭のてっぺんまで、隙がない。パーフェクトウーマンとは綾のことなのだ。





「は、はい! 葵です」

「くすっ、こんにちは。仁の姉の綾です。はじめまして」





見上げる葵にサングラスを外し、にっこりとほほ笑んだ。

歯並びのよい真っ白な歯が見える。





「お姉さんですか! 初めまして。立花 葵です。今日はよろしくお願いします」





久美の言っていたことは間違いなかった。サングラスを取り、自己紹介をした綾は、仁を女性にしたような顔立ちで、女性的というよりも、男顔の美人だった。背の低い葵と並ぶと、バランスが悪い。





「こちらこそ、よろしくね。ここがドレスのショップよ。入りましょう」

「はい」





白いドアに、ステンドグラスの窓が印象的な入り口のドア。店全体は城のような造りで、閑静な住宅街にあった。路面店とは一線を引いたように、客を選ぶという雰囲気がある。まさに、選ばれし者だけがその店のドアを開くことが出来る。たかがドア一枚だが、価値をしっているものしか、開けることが出来ないのだ。

ドアベルが鳴ると、店の中からオーナー兼デザイナーの沙織が出迎えた。マダムという言葉がぴたりと当てはまる感じで、ブラウスはひらひらとフリルがふんだんに使われていて、スカートは黒のロングスカートだ。このままコーラスの発表会に参加出来そうである。

店の中もそのような内装で白亜の豪邸といった感じである。ピカピカに磨かれた床は大理石だ。真ん中にはらせん階段があり、手摺に手をかけて降りれば、お姫様そのものだ。



「いらっしゃいませ。綾さん、お久しぶりでございます」

「沙織さん、お久しぶり。電話でも話してあったけど、仁の婚約者の立花 葵さん。ウエディングドレスとお色直しのドレスをお願いしたいの」





綾の後ろに立っていた葵は、綾に背中を押され、前に出る。





「葵さんですね。この度はおめでとうございます」

「ありがとうございます」

「心を込めてデザインをさせていただきます。さあ、こちらへ」





デザイナーの沙織と挨拶をかわし、店内へ案内される。店内の内装だけで圧倒され、葵は、緊張の面持ちだ。親しい間柄のデザイナー沙織と綾は、互いの近況を話しながら店内奥へと入って行く。





「どうぞ、こちらへ」





アンピール家具で統一された家具は、華やかなウエディングドレスの邪魔をせず、且つ、上品に演出している。全てが計算された店内で、葵の表情は固くなっていき、居心地の悪さは、最高潮になっていた。

葵は案内されるままに綾と応接セットに座る。テーブルを挟んでデザイナーの沙織がロングスカートを優雅に広げ、腰を下ろした。