仁は、葵の好きなようにしたらそれでいい。それが、優しさだと思っている。
しかし、葵は違う。忙しいことは分かっているが、1時間でもいい、いや、30分でもいい、夫婦になるための大変な儀式を、二人で乗り越えたかったのだ。これではまるで、結婚を無理やりさせられているのが仁のように感じる。
仁は母の理恵を信頼し、全てを任せているようだが、葵が姑となる理恵に結婚式にたいする女としての思いを言えるわけがなかった。
これからまだある打ち合わせが、葵にとって幸せの入り口にはなっていない事を、仁は分かっていない。
仁の気持ちは、仕事をある程度めどをつけ、新婚の期間は、葵と過ごす時間を作りたいということなのだが、葵の気持ちとは、逆方向に向かっていた。
理恵を見送ると、深いため息を吐く。
「仕事場に戻るとするか」
葵は、足早に職場に戻った。
「すみません! 只今戻りました!」
広報室のドアを開けるなり、深々と頭を下げる。
「おかえりー」
「ごめん! 遅くなった!」
社内広報誌の締切日である。ページ数の少ない広報誌であっても、重要な雑誌だ。葵が打ち合わせの間、久美が葵の仕事を処理していた。デスクにばたばたと戻り、名札を直すと、パソコンを開く。
「今日の打ち合わせは? 何処まで進んだの?」
久美は顔をパソコンから離さず、キーを打ちながら、葵に話しかける。
「式のことはだいたい決まって、後は、関係ない引き出物の話。それはもうお任せ。会社の取引先とか絡んでいてよくわからないもの」
「面倒なことは任せちゃえばいいのよ。ねえ、それより、なんで神前を希望したの?」
久美は、ホテルのチャペルで式を挙げると思っていた。それは、ホテル側も思っていたに違いない。葵は、周りをちらりと確認して、久美に小さな声で言う。
「だって……まだ恋してるって段階でもない、見合い相手と、誓いのキスなんて出来るわけないでしょう?」
「あ~なるほど、それは、分かるような気がする」
「でしょ?」
お色直しの回数を考えれば、チャペルを選ぶのだが、誓いのキス。これが、葵の引っかかるところだったのだ。それが例え、額だったとしても、葵には受け入れられないことだった。
「あ、そうそう、今度名波さんのお姉さんが帰国するんだって。ドレスをお姉さんと選びなさいって」
「葵、知ってる? その名波さんのお姉さんのこと」
久美は椅子をスケートの様に床を滑らせて、葵の隣にくっ付いてきた。
「知らないよ。会ったことないもん」
「やっぱりね。名波さんのお姉さんね、元モデルだよ。それもパリコレの」
「はあ!?」
「バカ、うるさい」
びっくりして大きな声を出してしまい、あわてて口を両手で塞ぐ。周りを見回すと、課長がジロリと睨みを利かせていた。
「結婚して引退したけど、たまにね、雑誌に今のライフスタイルを特集されたりしてるよ」
「えー、なんか嫌だな。あの兄妹目立ち過ぎ。ものすごい引き立て役じゃない」
「葵は十分可愛いよ。安心しなさい。さ、締切、締切」
久美は、葵の肩をポンポンと素早く二回たたき、自席に戻る。葵は、がっくりと肩を落とす。結婚式に、ドレス。さらに差がつく姉が今度の超えなくてはならないハードルだ。自分ばかりと、常々思っていたが、その思いは更に強くなっていた。
しかし、葵は違う。忙しいことは分かっているが、1時間でもいい、いや、30分でもいい、夫婦になるための大変な儀式を、二人で乗り越えたかったのだ。これではまるで、結婚を無理やりさせられているのが仁のように感じる。
仁は母の理恵を信頼し、全てを任せているようだが、葵が姑となる理恵に結婚式にたいする女としての思いを言えるわけがなかった。
これからまだある打ち合わせが、葵にとって幸せの入り口にはなっていない事を、仁は分かっていない。
仁の気持ちは、仕事をある程度めどをつけ、新婚の期間は、葵と過ごす時間を作りたいということなのだが、葵の気持ちとは、逆方向に向かっていた。
理恵を見送ると、深いため息を吐く。
「仕事場に戻るとするか」
葵は、足早に職場に戻った。
「すみません! 只今戻りました!」
広報室のドアを開けるなり、深々と頭を下げる。
「おかえりー」
「ごめん! 遅くなった!」
社内広報誌の締切日である。ページ数の少ない広報誌であっても、重要な雑誌だ。葵が打ち合わせの間、久美が葵の仕事を処理していた。デスクにばたばたと戻り、名札を直すと、パソコンを開く。
「今日の打ち合わせは? 何処まで進んだの?」
久美は顔をパソコンから離さず、キーを打ちながら、葵に話しかける。
「式のことはだいたい決まって、後は、関係ない引き出物の話。それはもうお任せ。会社の取引先とか絡んでいてよくわからないもの」
「面倒なことは任せちゃえばいいのよ。ねえ、それより、なんで神前を希望したの?」
久美は、ホテルのチャペルで式を挙げると思っていた。それは、ホテル側も思っていたに違いない。葵は、周りをちらりと確認して、久美に小さな声で言う。
「だって……まだ恋してるって段階でもない、見合い相手と、誓いのキスなんて出来るわけないでしょう?」
「あ~なるほど、それは、分かるような気がする」
「でしょ?」
お色直しの回数を考えれば、チャペルを選ぶのだが、誓いのキス。これが、葵の引っかかるところだったのだ。それが例え、額だったとしても、葵には受け入れられないことだった。
「あ、そうそう、今度名波さんのお姉さんが帰国するんだって。ドレスをお姉さんと選びなさいって」
「葵、知ってる? その名波さんのお姉さんのこと」
久美は椅子をスケートの様に床を滑らせて、葵の隣にくっ付いてきた。
「知らないよ。会ったことないもん」
「やっぱりね。名波さんのお姉さんね、元モデルだよ。それもパリコレの」
「はあ!?」
「バカ、うるさい」
びっくりして大きな声を出してしまい、あわてて口を両手で塞ぐ。周りを見回すと、課長がジロリと睨みを利かせていた。
「結婚して引退したけど、たまにね、雑誌に今のライフスタイルを特集されたりしてるよ」
「えー、なんか嫌だな。あの兄妹目立ち過ぎ。ものすごい引き立て役じゃない」
「葵は十分可愛いよ。安心しなさい。さ、締切、締切」
久美は、葵の肩をポンポンと素早く二回たたき、自席に戻る。葵は、がっくりと肩を落とす。結婚式に、ドレス。さらに差がつく姉が今度の超えなくてはならないハードルだ。自分ばかりと、常々思っていたが、その思いは更に強くなっていた。



