結納が終わると、後は式の日取り、招待客、ドレスなどなど、決めることは山ほどあった。

相変わらず仁は仕事が忙しく、式や披露宴の打ち合わせには、仁の母、理恵が主体となって話を進めていた。



式は葵の希望が通り、神前でとり行われることになったが、披露宴は名波商事グループのしがらみもあり、絞りに絞った招待客300人の盛大な披露宴となる予定だ。実際はもっと招待客がいるらしいが、そのことを伝えた葵の顔色が変わったのを見て、仁が制御したのだ。しかし、人数を抑えるのにも限界があり、その分、二次会に招待客を回した。披露宴、二次会共に葵の勤めるプレシャスホテルに決まっている。名波の方で、気を使ったのは言うまでもない。





「葵さん、仁の姉、綾って言うんだけど、綾が結婚する時にドレスのデザインをお願いしたデザイナーさんのショップがあるの。ドレスはそこで選んでみてはどうかしら? 葵さんに似合う素敵なドレスがあるはずよ?」





葵の心とは裏腹に、嫁になる葵をにこやかな顔で見て、楽しそうに話す。





「ありがとうございます。教えて下されば、お伺いします」





何回目かの打ち合わせを終え、ラウンジで理恵と二人、コーヒーを飲んでいた。葵は仕事中にも関わらず、広報課の部長の計らいで堂々と仕事を抜け、披露宴の打ち合わせをしていたのだ。しかし、制服のままというわけにはいかないので、わざわざ私服に着替えている。



最近では滅多にない豪華披露宴と、名波の名前の大きさにこれからのホテルの利用頻度を計算しても、葵の仕事を抜けさせることぐらいどうってことはないのだ。





「綾がね、仁の結婚を知って、来週帰国するの。一緒に行ってはどうかしら?」

「え? お姉さん? ですか?」





いつかは会わなければいけない姉。葵は、瞬時に頭の中で姉の顔を作り上げた。





「綾が一緒に行ったらいいアドバイスもくれるし、式の前に顔を合わせておくのもいいと思ってね」

「それもそうですね。分かりました。週末は休みの予定ですので、帰国なさったら、連絡を下さいますか?」

「分かったわ。葵さん、かわいい花嫁さんになりそうね。楽しみだわ」





理恵はにっこり笑って、肩をすくめた。理恵は姑になる女だ。葵は、母親の恵美子と花嫁になる準備をしたかったが、恵美子が「名波家の言う通りに」といい、葵は、自分の主張もなく、準備が進んだ。恵美子の気持ちを想えば、理恵が遠慮をするのが通りというものだが、すべての仕切りを名波家がすることになり、恵美子が遠慮をした形になった。何も自分の思うようにならないのは、葵が我慢ならず、挙式だけは、神前でと、希望を出した。嫌な所を見つけ、嫌いにでもなれればもっと言いたいことが言えたのだが、理恵は気さくで、気取らない嫌味のない女だった。



葵はホテルに勤務している。結婚式はしょっちゅうある。しかし、葵達のように結婚する当事者が打ち合わせに来ないなど、お目にかかったことはない。いや、聞いたことが無い。全ての打ち合わせが、理恵と葵の二人で行われ、打ち合わせがあった日に仁から確認のメールが来るばかりだった。