初めて銀座でデートをしてから、数日がたった。デートといえるほどのものではなく、ただの散歩のようだった。





「映画を観るとか、ショッピングをするとか何かあるじゃない? それもなくて、ただ歩いて、もうこれは私が何か言うしかないと思って映画を観たわけ。話題の映画もなくて、ただの時間つぶしだったわ」





葵は帰って来た早々に、母親に愚痴を言った。恵美子は、困った顔をしながらも、葵の話を聞いていた。しかし、葵はご機嫌だ。





「お母さん、見て」





仁にプレゼントされたジュエリーを母親に見せる。





「え! ちょっとこのブランド!! 早く見せて!」





箱から出すのももどかしいほどのせかされ方で、





「待ってよ」





葵は、箱を開けて見せた。

言葉が出ないという風に、恵美子は、口に手をあてた。





「それと、これ」





首にかけたネックレスを恵美子に見せる。





「うそでしょ!!」





箱に入っていたダイヤのピアスにくぎ付けだった恵美子は、すぐにネックレスを指にかけて引っ張る。





「うっ……」

「き、きれい……こんな輝き見たことがないわ。良かったじゃない葵、最高の男で。見合いだけど、めぐり逢いなのよ」





恵美子は輝きの前で、屈した。申し訳ない、断ってもいい。好きな人と結婚して欲しいとずっと言っていたのだが、がらりと言うことが変わった。宝石を嫌いな女などいるはずもなく、葵も例外なく喜んだ。ショートカットの葵の耳には、ダイヤがきらめき、鏡の前から動けなかった。それから毎日身に付けている。目ざとい同僚の久美は、羨望のまなざしでダイヤを見つめた。



しかし、それから何の音さたもなく日々は過ぎ、葵は、自分は婚約しているのだろうか、結婚するのだろうかと、今までの日々が幻なのではないかと思うようになっていた。



葵とは逆に、早く一緒になりたい一心で、仕事のスケジュールをタイトにして、毎日深夜まで仕事をしていた。結婚後は少しでも一緒に過ごしたいと思う、仁の思いからだ。そして、葵とは会っていない時間も、結婚に向けての準備は進めており、秘書の潤を巻き込み、着々と進めていた。



 そして、今日はとうとう結納日となった。

 仁に会ったのは、車で送って貰ってから今日で4回目。今日は、振袖は遠慮させてもらい、ワンピースを着た。ワンピースとは言っても、ホテルで上等のシルク素材の物をレンタルしてきたのだ。見栄えはいい。



 自分で決めたとはいえ、結納にこぎつけるまでは気分の浮き沈みが激しかった。諦めてもらう方法や、嫌われる方法。もがいて、もがいて苦しかった。どうしてそんな気持ちになったのかは、仁のあっさり加減が原因だ。あれほど真剣に悩んで選んだ結婚指輪や婚約指輪。それと予想外のジュエリーまで贈られたのにも関わらず、音さたなしの日が長すぎた。好きで結婚するわけではない葵の心を察すれば、もっと仁が努力するべきものだった。それでも時間は過ぎるのだ。怒りもあり、結婚の約束をなかったことにしようと、鼻息荒くなっていた時もあったが、 さすがの葵も結納当日になれば、諦めがついていた。