「いつも元気な葵がどうしたの? ぼーとしちゃって、元気ないじゃない?」

「え!?」





声を掛けたのは、同僚の田中 久美。同じ年の27才だ。彼女もまた、広報部でデスクを並べる仲間だ。スラリとした色気のある女性で、とびぬけた美人と言う程でもないが、仕草が色っぽく、艶のあるところに男性は惹かれるのだろう。非常にモテる女である。自分もそれを分かっているところが憎い。美容には手を抜かず、美容に関心をしめさない葵に小言を言うのが日課である。

久美は恋愛をかなり楽しんでいる。結婚して男の浮気は許されるけれど、女は世間が白い目でみるから、独身の内に楽しむのが口癖で、葵には到底真似のできない事だった。





「今日久しぶりに行く?」





久美は手をクイッと傾け、飲む合図をした。

 葵も今日はバイトもない。真っ直ぐに帰るのも気が重かった。ありがたい誘いに、間髪入れずに誘いに乗る。



 「そうだね、行こうか」

「じゃ、それまで仕事をしっかり!」





久美は背中をポンと叩き、激を送った。

そう、しっかりしなくちゃ。仕事をしているのだから。自分に言い聞かせる。

自分の理想とする結婚はどういうものなのだろう。告白され、もしくは告白して付き合う。そして、波長が合って、この人なら苦楽を共に歩んで行けそうだと感じて結婚をする。それが恋愛からの結婚。

しかし、葵の場合は、楽しく、わくわくするような見合いではなく、社交辞令で、おまけに圧力がかかったものだ。どんな人なのかも知らず、愛情もなく結婚する。

人生、何が起こるか分からない。一生懸命に生きているだけなのに困難にぶち当たる。それでも、今、この時を生きている。それは葵に意味のあることなのか。それとも新しい試練なのか。葵は人生の分岐点にいるのだ。どの道に行けば正解なのか、それは葵にも分からない。どのみち、葵には、選択権がない。深く考えれば考えるほど、安易に見合いをしてしまった自分がいけないという結果になる。家族には強気に言ったが、内心はそうじゃない。もう後戻りは出来ない自分の人生に、腹をくくり切れない自分がいた。