他愛ない話も、仁にとっては楽しくて、時間を忘れていた。葵は、ますます上機嫌になり、仁が勧めるままにスパークリングワインを流し込むように飲んでいた。缶チューハイや缶ビールが日常で、口当たりのいい酒に、葵の口は食べて飲んでと忙しい。

身体を揺らしはじめ、笑いも止まらない。立派な酔っ払いになった葵を見て、仁は笑う。

支払いを済ませて、店の前に車を呼び寄せると、葵を支えて、店を出た。







「おっと、大丈夫か? ちょっと飲ませすぎたな……」

「なに? あたしはねえ……ふふふ」





葵は、何をしても言っても楽しいようで、笑いが止まらない。レストランを仁の支えでなんとか立っており、今は店の前だ。葵のバッグは仁が持ち、葵は、仁を抱き枕代わりに抱き付いている。





「嬉しいような、そうじゃないような」





そんなつぶやきも葵には聞こえていない。





「送って行こう」

「いやあだ。まだ帰らない」





葵は酔うと人恋しくなり、おしゃべりになり、突拍子もない行動にでる。仁にその悪い癖が出てしまった。





「それもまた嬉しい言葉だ」

「抱っこ」

「はっ!?」



仁は、滅多に出さない大きな声を出してしまった。それも甲高い声だ。

葵は仁に両腕を広げ、まさに子供の様に抱っこをせがむ。流石の仁も困り果て、周りの視線を気にした。





「抱っこしてくれないなら他の人を探すからいいもん」





むくれた 葵は、フラフラと通りを歩き出し、誰でもいいから声をかけそうな雰囲気である。





「ちょ、ちょ、コラコラ」





葵のバッグを持ち、葵を追いかける仁は、名だたる名波商事の副社長には見えない。





「じゃ、抱っこ」

「はいはい」



降参した仁は、葵のバッグを肩に掛け、軽々と葵をお姫様抱っこして、車に近づく。仁の容姿と身長を持って女を抱いているのだ、注目を浴びないはずがない。 本来ならば恥ずかしいことこの上ないが、今の葵はご満悦だ。



「高い、高い。ふふ」



高身長の仁に抱き上げられれば視界はいいに決まっている。仁の首に腕を回し、首元に顔を埋める。素面だったらばどんなに嬉しいかと、仁は複雑な心境だ。

なんだろう、この安心感は。葵は酔いながらもそこは感じている。



「降ろすよ」



車の傍に行き、葵を降ろす。運転手が後部座席のドアを開けると、仁が支え、葵を車に乗せた。

飲むと人恋しくなる葵は、車に乗り込むとすぐさま仁の腕に自分の腕をからめ寄り添う。



「帰る」

「はいはい」



縋り付き安心したのか、葵は直ぐに心地よい寝息をたてはじめた。