「もう、何日通ってるんだ?」

「あ? わかんないな」





仁は、葵の居場所を教えてもらう為に、時間の許す限り葵の実家に行っていた。門前払いまでは行かないが、玄関を開けて対応されても教えては貰えなかった。





「意外と根性があるな、お前」





何かに熱くなるところを見たことが無かった潤は、感心する。





「そうだな、仕事以外にこんなことが出来るなんて俺も思っても見なかったよ」

「でもよ、葵ちゃんの居場所なんて興信所を使えばすぐだろうに」

「いや、それはしたくない。何回通っても、教えてもらうんだ」

「そっか、頑張れよ」





潤は肩をポンとたたき激励した。





「よし、今日も行くか。ちょっと遅くなったけど、いいか」





腕時計を見て、時間を確認した。



都心から離れている葵の実家まで、仁は電車を使った。実家に行く目的が出来たことで、張りが出てきていた。



葵の実家がある団地前に着くと、階段を上がって玄関前に立つ。

ベルを鳴らすと、中から「はーい」と男の声がして、双子の弟のどちらかだと分かる。





「名波です」

「はーい、お、また来たの? ……いい男なんだから姉ちゃんよりいい女がいるだろうに」

「翔!! バカな事を言っているんじゃありません!!」





恵美子がエプロンで手を拭きながら、玄関に顔を出す。





「ごめんなさいね、仁さん。全く、あっちに行ってなさい」

「痛って……わかったよ」





げんこつで翔の頭を恵美子が叩いた。仁は何回も立花家に通いつめているうちに、葵の弟達に、嫌味なくらいにいじられていた。男兄弟のいない仁は、じゃれあいの様で半分は楽しかったのも事実だ。





「いえ……あの」

「ちょっと待ってくださいね」

「はい」





いつもと違う対応に、仁は意味なくネクタイを直す。

恵美子が家の中に入り、義孝を呼びに行く。暫くすると、奥から義孝が出てきた。





「こんばんは。すみません、遅い時間に」





仁は、緊張しながら深く頭を下げた。





「いや、大丈夫ですよ。明日は休みですし、まだ八時です。副社長、時間はありますか?」

「はい」

「お母さん、ちょっといつもの所にいってくるから」

「はーい」





義孝は家の中にいる恵美子に声をかけ、サンダルを履いた。





「ちょっと、行きましょう」

「はい」





義孝はいつも自治会仲間と飲んでいる馴染みの居酒屋に仁を連れて行くつもりだ。行く道すがら、仁は黙って義孝の後を付いて行く。





「こんな所ですが、つまみがうまいんです。いかがですか? 一杯」

「はい、是非」





暖簾をくぐり、ガラッと引き戸を開けると、女将がにこやかに「いらっしゃい」と迎え入れた。

カウンター席が5つ、テーブルが二つの狭い店で、女将が一人で切り盛りをしていた。





「女将、今日はテーブルにするよ」

「はーい」

「さ、どうぞ」

「はい」





仁を先に座敷にあげ、後から義孝が座った。二人とも、正座である。

同時におしぼりと、お通しが運ばれ、飲み物の注文をする。





「どうしますか? ビールか」

「すみません、私はお酒が弱くて」





仁が申し訳なさそうに言う。





「そうでしたか、それでは、女将、焼酎薄めのチューハイを二つ。あ、俺は普通ね」

「分かっていますよ」





おしぼりで手を拭き、無言で酒を待った。





「はい、どうぞ~お待たせしました」





テーブルに酒が置かれる。仁はぺこりと頭を下げて、グラスを手前に引く。





「副社長、では」





義孝がグラスを持って軽く上げると、仁は両手でグラスを持って頭より上にあげた。





「はい」





二人で一口飲むと、義孝はうまそうに飲み、仁は、酒がきつかったのか、苦いような顔をした。義孝は、一呼吸おいて話す。





「私は、あなたに雇われている身ですが、副社長の話は葵のことですよね。だから私は今からは、葵の父として接しさせていただきます。宜しいでしょうか?」

「は、はい。もちろんです」





その言葉を聞き、義孝は足を崩した。





「仁さんも、足を崩されて」

「はい」

「私はね、離婚の原因を聞いちゃいないんですよ。葵もいい大人だ、自分で決めたことに親が口出しをするものじゃないと考えてね。でも、仁さんがこうして居場所を知りたいと家に訪ねてくるのは、仁さんは離婚に納得をしていないからじゃないのか? 本当の離婚の理由はなんなんだ?」

「……」

「言いにくいことか?」





仁は握り拳を作り、覚悟を決めた。