お見合いを断るつもりで仲人でもある、部長の中村に連絡を取ってもらったのは、義孝が項垂れて帰って来てから1週間たった頃である。

相手、名波 仁の指定してきた場所は、先日のお見合いに使った料亭だった。





「先日は、ありがとうございました」

「こちらこそ」





お決まりの挨拶をして、葵は直ぐに本題に入った。

向かい会って話をするのはお見合いから数えて、二度目である。見合いでは緊張のあまり、仁の顔をまじまじと観察することは出来なかった葵だが、こうしてみると、マンガに出てくるように整った顔をしている。女子でこの顔を嫌いな人はいないだろう。葵も、初めて見る良い顔だと、窮地にいたっても呑気にかんがえていた。



葵は本来はっきりとした性格で、明るい。職場でも先輩、後輩問わず、話しかけてくる話しやすい人柄でもある。お見合いは父親の顔を立ててしたが、今日はもう違う。ストレートに言うつもりでやって来たのだ。





「あの、はっきりと申し上げます。私は結婚をするつもりはありません。先日は、正直、父の上司からのお話だったので、顔を立てお見合いをしました」



考えを曲げないと決めてきた覚悟が、表情に現れている。





「……」



仁は、それを真正面からしっかりと受け止めて、聞いている。





「それに、恥ずかしい話ですが、父は以前会社を経営しておりまして、その会社が倒産し借金を抱えております。そんな家の者は名波さんの家柄にはふさわしくありません」

「……」

「それだけをお伝えするために、今日はお時間を取ってもらいました。すみません、こんな私に申し出てくれて、嬉しく思っています。申し訳ありません」





葵は座布団を外し、土下座をして謝罪をした。





「その借金を返すために、バイトをしていたのか? さつきさん」

「へ!?」





仁から、さつきの名を聞くとは考えもしなかった葵は、びっくりしすぎて、声が裏返ってしまった。

涼しげな顔で葵を見つめてくる仁が何故知っているのか。そうか、日本を代表する企業の副社長ともあれば、葵の身辺は調査済ということか。





「し、調べたの?……いえ、調べたんですか?」





つい、言葉遣いを荒くしてしまい、言い直す。





「いいや、そんなことはしない。……ウーロン茶、ホテルのパーティーでフルーツ」





言葉を並べ、連想ゲームを始める。葵は、怪訝な顔をした。





「ウーロン茶? フルーツ?……あ! あの時の!」





記憶を蘇らせ、思い出した葵は、仁を指さした。





「思い出したか……」