【短編】穴

「昔ね、おじいちゃんが子供の頃、あそこに落ちたんだって!」


「「えぇっーーー!!」」

悲鳴を上げたのは私とお兄ちゃん。


お父さんなんて、笑いを堪えてるし。


お母さんなんて、肩まで震わせて大声で笑っている。 

「あんなところに落ちるなんて、考えられないわ。我が親なら驚きよ!」


「ねぇ、おじいちゃん、本当なの?」


「さぁな…」


おじいちゃんは惚けているのか、言葉を濁した。


すかさず、おばあちゃんが口を挟む。 


「おじいちゃんのお母さん、つまり、亮と美奈からしたら大婆さんから聞いたんだけどね。おじいちゃん、子供の頃、あの中に落ちて、エライ目に遭ったらしいよ」


おばあちゃんが丸い顔をさらに丸くして、楽しそうに話す。


「ホント?」


箸を手にしたまま、身を乗り出して、話に耳を傾ける。