その日は雨が降っていた。
佐藤ミカは大雨の中、傘もささずに歩いていた。
自分でも、何が起きたか分からなかった。先ほど起きた何かで、自分はこうなってしまったのだ。
この雨の中。人なんて歩いているはずもないこの場所。真っ暗でほとんど何も見えないような道を、傘もささずに歩いている。
しばらく歩いていたミカの横を、バイクと車が通過した。スピードはかなり出ている。自分に気づいていたのかどうか分からないけれど、運が悪ければひかれていただろう。
ミカは左腕と左足に怪我をしていた。そして、雨水で汚れてしまっていた。


怪我と汚れ。
それは、ついさっき。ミカが自分の彼氏の車から、落とされたことによってついた怪我と汚れだった。
こわい。さむい。いたい。
心も体も、バラバラになりそう。
助けてほしい。もうこのままでは嫌だ。
絶望がミカを襲った。
このまま自分は、この道端に供えられている花を、置かれる側になるのだろうか。
ガードレールに供えられた花の赤さが、真っ暗闇のなかに浮き出ていた。

すると、ミカは何かにぶつかった。
それは人で、自分に傘をかけてくれていた。