ダイチは女性の腕をつかむと、ゆっくりと車に向かった。女性は嫌がるそぶりを見せず、ゆっくりとついてきてくれた。

ついさっき。女性の元へダイチが走りよったときの時間は、ほんの数秒だっただろう。
しかしダイチにとって、女性を車までつれていく時間は、その数倍にも感じられた。

女性の手はとても冷たかった。

雨は強みを増して降り続く。心臓が早く脈をうつ。
この歳で迷子ということも無いだろう。だとすると、家はなさそうだ。
雨の中、あてもなく歩き回るよりは、車に乗せた方が良い。一端は、家に帰ろう。

大地はそう思った。本当は、自分が一人であることがさみしいということを隠して。