その日は雨が降っていた。
バケツをひっくり返したような… そんな言葉がとてもあう雨だった。

上野ダイチは大雨の中、山道の休憩場に車をとめて、ガードレールの向こうを見ていた。
まだそこまで遅い時間でもないのだけれど、空は雲に覆われていて、とても暗かった。

フロントガラスに無数の雨が落ちる。ガードレールには、花が捧げられていた。

そこは人も車もあまり通らない山道で、車は雨でもスピードを出している。
ダイチの車が止まるすぐ前の道を、ずぶ濡れのライダーと車が、早いスピードで通った。
この休憩場にも、雨もあってか車はダイチのもの一つだけだ。

ダイチは目の前の、その山道を見つめていた。そして、瞬きを一つした。
その瞬きを一つするくらいの少しの時間に、山道に変化が起きた。
ダイチの視界の中に、一人の女性が現れたのだ。その女性は傘も持たずに歩いていた。

その姿は異様だった。不審者と言っても良い。
こんな大雨の中で、傘も持たずに歩き回るのはおかしい。
おかしいけれど、ダイチにはそれが気になってしまった。