明日の地図の描き方

さっきと同じように手握ってもらう。でも、さっきと違う所、一つ発見した。
(私…さっきより上手くなってない⁈ )
氷の上に慣れたのかな。足にちゃんと力入って滑れてる気がする…。
「前島さん、さっきより上手くなってますよ」
「そう?やっぱり⁈ 」
初めて顔上げた。見渡すリンク一面、すごく広くて大きい。
(こんな中をフィギュアの選手達って滑ってるんだ…スゴイ…)
素直に感動。テレビ見ただけじゃ、この臨場感、味わえないから。
「そのまま、前見て滑って」
小野山さんの言葉に少しドキッ。だって前見たら、あなたしか見えないし。
ペアのスケーターじゃあるまいし、顔見合ってなんて恥ずかしいじゃん…と思いきや。
スーッと小野山さん、横に逸れた。ついでに片手離して…。
「えっ⁉︎ 」
広がる視界。同時に不安も広がった。
「遠く見て。車の運転思い出して」
(く…くるまぁ⁉︎)
「ずっと先の正面の壁見ながら足前に出して…」
(か…かべぇ⁉︎ )
必死に向かい側の壁見る。でも足元フラフラしてるから、当然、壁もユラユラ。
「む、無理ですっ‼︎ そんなの急に言われても…‼︎ 」
ほぼ叫びに近い。たった1、2mしか進んでないのに。
グラグラしてる私の足元に不安を感じたのか、小野山さん、手持ってくれた。
ホッ…と言うか…
「やめて下さい!…もうっ!」
初心者なのに、急に手離したりするのやめて。今とっても怖かったんだからっ‼︎
「すみません。どれくらい上達したか見たくて」
「冗談じゃないですよ!そんなすぐに上達する訳ないじゃないですか!若い子ならともかく、私いくつだと思ってるんですか!」
本気で言い返してしまってるよ。ポリスに。
「いくつなんですか?」
女性に年聞いてる。デリカシーのカケラも無しか…。
「私、三十三です」
少し怒ったように返事した。こんな大勢人のいる前で、年聞くのもやめて欲しい。
「見えませんね。もっと若いかと思ってました」
いやいや、それはないって。
「相談所の情報、確認しなかったんですか⁈ 」
あれに年齢も学歴も全て書いてあったのに。
「ああ、あれね、全く読んでなかったですね。言ったでしょ⁈ 程々の女性と会えると思った…って」
(えっ…あれ本気で言ってたの⁉︎ )
「私に合わせて答えたのかと思ってました。こっちがいい加減な理由言ったから…」
なんだ、違うのか。
「いや、あの…最初は確認してたんですけど、情報があまりに多くて、だんだん嫌気が差してきて…すみません、取り敢えず一回目の人は、テキトーに選んだんです…」
だから情報は殆ど読んでません…って。ええ〜⁉︎ 何それ…
「私よりひどいじゃん…」
ついポロッと本音出ちゃった。この人って、とんだけなポリスマンだよ。
「すみません…本当にいい加減で…」
笑いながら謝ってる。反省してないでしょ。
「でも、駅前で会った時、想像以上に可愛い人が立ってたんで正直驚きました。写真と見た目も違ってたし…」
(あっ…同じ感想…)
「私も小野山さん、写真と違ってたのでビックリしました」
実物の方が素敵だなって思ったもん。どう見ても。
「あれ、二年前の写真なんです」
「えっ…⁈ 」
「申し込みの時、写真取りに行く暇なかったんで、仕方なく仕事で撮ったやつ流用したんです」
そんなの…あり得ないでしょ…。
(こんな人にポリスやらせといていいの⁉︎ )
「前島さんは、写真とヘアスタイル、全然違ってましたね。メイクも」
さすが警察官。見るとこ見てんだ。
「あの写真は、仕事辞める前に免許証の更新で撮った物なんです。でも、二ヶ月くらい前のですよ。小野山さんみたいに、何年前とかじゃないですからね!」
悪びれずに言う。それを小野山さん、ニコニコして聞いてた。
「僕は三十五です」
さっきの話の続きだね。
「知ってます。情報に書いてありました」
あなたと違って、こっちは一応、そういうの頭に入れて会ったんですよ。
「でも、見えないですね。若く見えます」
「ははっ。貫禄ないですからね…」
笑いながら落ち込まなくても…。
「いいじゃないですか!これからですよ!」
スケートしながら喋る三十三と三十五のカップル…。多分、周りから見ても、そんな年齢に見られてないよね…。

「前島さん、今日初めてスケートしたとは思えない感じでしたよ」
リンクから上がって、あったかい物飲んでるとこだった。
「初めての人って、普通、背筋伸ばせないか反るかなんですよ。でも、前島さんはきれいに背中真っ直ぐのままだったし、一度も崩れたなかったし」
「それは手引いてもらってたからですよ」
小さな子供みたいにね。
湯気の立つレモンティーに、息吹きかけながら飲む。美味しいけど、熱いわぁ…。
「仕事で腰痛ベルト使ってたでしょ」
不意な質問。何の意味があって?
「…何故わかるんですか?」
「わかりますよ!腰、全然ブレてなかったし、どっしり安定してました」
「えっ…腰…?」
見てたの⁈
「まるでサポーターかベルトしてるみたいに、ピシッと真っ直ぐでした」
「あははは…」
小野山さんの姿勢見て、思わず笑った。そっちこそ、私以上に背中真っ直ぐじゃん!
「お互い様でしょ?小野山さんだって、相当背筋伸びてますよ。さすが警察の方ですね」
「しーっ!下手にその名前出さないで!世間は結構敏感なんです!」
それに今日はプライベートですからって…面白い。焦ってる。
「どうもすみません…」
でも、先に仕事の話振ったの、あなたですよ。
(まぁ私のしてた仕事は、社会的にはあまり人に影響与えないけどね…)
「前島さん、きっとすぐ一人で滑れるようになりますよ。何回か通ったら」
一緒にどうです?って…お誘いですか?
「いえ…とりあえず今日だけで。思った以上に足疲れたので、しばらく筋肉痛になりそうです」
年だよね。足腰に来るなんて。
「じゃあまた機会があれば。ところで、他のアトラクション何処か行きますか?」
折角来たんだし、スケートだけじゃ勿体無いから…って。確かにね。
パラパラ地図広げて確認。
「私、ここに来たの中学以来で、二十年ぶりなんですよ。アトラクションも大分変わってますね…あっ、これ懐かし…」
差した指先見て、小野山さん、顔色変わった。
「これ…急降下するやつですよ…」
「そうそう!二十年前出来たばかりで大人気で、結局乗れなかった思い出があるんです。今日乗ってみたいなぁ…」
内臓持ち上がるって話がホントかどうか確かめたいって話、小野山さん顔引きつらせて聞いてた。
「…でも、やっぱりやめよ。怖いから」
「ホッ…」
大きな溜め息。分かり易い人だな〜。
「じゃあこれ行きましょ!私大好きなんです!」
指先の位置変えた。
「ホラーハウスですか」
「これなら作り物しか出ないから怖くないでしょ?」
大体予想もつくし。
「いいですね、行きましょう」
ふふ。小野山さん、こっちは大丈夫なんだね。
でも間違っても、私が怖がったり、抱きついたりするの期待しない方がいいよ。だって私、こんなのに入ってキャーキャー言ったこと一度もないから。