「ミオはもう少しよく考えて行動するようにしないと、人生失敗すると思う」
すっかり目が覚めたらしく、トオル君、落ち着いた声出した。
「結婚も仕事もよく考えないと…。この二週間、いい冷却期間になったろ」
少しつまらなかったけど…って、トオル君、可愛いこと言ってくれるね 。
「うん…何も話せなくて…寂しかった。ずっと…」
トオル君の顔も見れなくて、声も聞けなくて。
「おかげで何も手に付かなくて、何も考えられなくて…。あっ、でも、仕事だけは頑張って通ったけど…」
「エライ、エライ!」
トオル君、笑ってるみたいだ。
「僕もミオに会いたかった。ずっと…」
だから我慢できなくて、昨夜来た…って。
お父さんに会うの初めてで緊張したぁ…とホッとしてる。なんだか嬉しい。
「うち親父いないからさ」
ぽそっと大事な一言。初めて聞いた。彼の家族の話…。
「その話…今度顔見て聞かせて。今はとにかく寝て。夜仕事だから」
「眠れるかなぁ…ミオの声聞いたら、目覚めたもんなぁ…」
ジョーダンっぽく言ってる。こういう時、どんな顔してるか分らないから残念だ。
「無理してでもいいから寝て!大変な仕事してるんだから!」
「ははっ…分かった分かった」
話は尽きないけど、ずっと話してると、ますますトオル君眠れなくなる。ゆっくり休ませてあげないと、今夜も命張って仕事するんだから…。
「おやすみなさい。また会えるの楽しみにしてる。連絡してね」
「うん…じゃあまた…」
切り難い電話切った後の余韻、今は楽しんでる暇はない。リビングで父親が、私を待ってるから。
ゴクッ。
覚悟を決めて、いざリビングへ。
足踏み入れると、父親、真面目くさった顔で新聞広げてた。

「お父さん、話って何?」
向かい側に腰下ろした。何聞かれてももう平気よ。酔いも醒めたし、不安もなくなったから。
父親、新聞から顔上げてこっち見た。一人娘の私を、大事に育ててくれた優しくて甘い人。何を言うのかと、息を呑んだ…。
「ミオは…警察官の嫁になると言うことが、どんな事か分かってるのか?」
あれこれ聞きたい気持ち、抑えてるんだろうなって口ぶり。
「うん…まぁ、大体は…」
この間、冬山の山頂でトオル君から少し言われたもんね。
「いつ何時、命を失くしたり大怪我したりするかもしれないんだぞ。そんな危険な仕事してる奴なんかと…」
言い過ぎそうになり、慌てて食い止めた。父親のすごい所、この我慢強さ。
「お父さんの言いたい事分かるよ。確かに危険な仕事だし、もしかしたら…って事もあるかもしれない。でも、だからこそ私のこと、大事にしてくれると思うし、守ってくれると思う…」
なんたって、“地域住民の安全なと平和” 本気で願ってる人だもん。
「私…そういう人のお嫁さんになりたいの…」
キッパリ。ブレないから、この気持ちだけは…。
父親、私の顔見て諦めたように目を伏せた。ごめんね、婿養子もらって、ずっと一緒に住むって約束だったのにね…。
「あっ、でも…まだ結婚決まった訳じゃないから」
その一言にぱぁ…と表情が明るくなる。
「なんだ、そうか」
安心してるけど、するなら相手はトオル君だよ。
(お父さん…三十過ぎた娘の行く末を、心配してくれてありがとう…)
今まで当たり前のように世話してきてくれた事、決してムダにしないからね。親孝行も、二人できっとするから。

モーニングコーヒー飲みながら、幼い頃を振り返る。
お父さんっ子だった私、沢山沢山遊んだよね。いろんな所へ一緒に行って、いろんな体験させてもらった…。
描いてきた日々は、どんなに時が経っても色褪せることなく輝いて、私の心を満たしてくれる。
お父さん…これからは私、トオル君と二人で同じように日々を重ね合っていくから。
どんなに時が経っても、どんな事が起こっても…決して色褪せることのない地図を描いて行くから……。