ゴクゴクゴク…
ミネラルウォーター500ml一気飲み。
「ふぅー…生き返った…」
アルコールで抜けた体内水分、補給完了。もう一本飲もう。
ゴクゴクゴク…
頭の中、トオル君の顔ばかり浮かんでる。
(結婚のご挨拶って何⁈ 誰と結婚すんの…⁈ 私……?)
水のペットボトル持ったまま、呆然と立ち尽くした。
(…あの日以来、何も連絡し合わなかったのに…どうして急に…?)
謎な人。時々理解不能な所あったけど、今回は特別だ…。

「とにかく、今はお風呂!」
ぬるめにのんびり浸かる。頭がスッキリして、汗が出るまで。
どれくらい浸かってたかな。扉の向こうから、母親の声がした。
「ミオ」
「何?」
チャプン…目を閉じて返事した。
「お風呂上がったらリビングに来て。お父さん、話があるって」
「わかった…」
…とうとう、父親の出番か。そうだよね、娘の人生の一大イベントだもんね…。
(……とは言っても、私まだ結婚しないとしか、言われてないんだけど…)
いろいろ聞かれても困る。私自身、まだトオル君のこと、全部知らないのに…。
(ーーっと、待って…)
はたと気づいた。
(もしかして私…そんな人にプロポーズしちゃった…⁈ )
お見合いから半年足らず。確かに氏名、年齢、職業、生年月日、人柄、大体分かる。でも、何か肝心な所抜けてない…?どこ…?
「……あっ!」
わかった!
トオル君から私、一度も聞いた事ない。
“何故、ポリスになろうと思ったのか”
それと、もう一つ。
“家族の話”
(聞いたことあったっけ…?ないよね…話してくれたこと、ないもんね…)
何故…?って深まる疑問。今すぐ電話して、彼に聞いてみたいって、思ったんだけど…。
(聞くなら、顔見て…!)
ざばっ!
お風呂上がって着替える。リビング直行しないで、先に部屋へ上がった。

スーハースーハー…
深呼吸三回。目の前のケータイに手を伸ばす。
RRRRRR…
コール五回。それ以上待っても出ない時は仕事中。
(お願い!出てっ‼︎ )
心の中で、これでもかってくらいお祈りしたよ。
「もしもし…」
眠そうな声。でも…
(神様、ありがとー!)
「…トオル君?あの…」
ちょっと待ってミオ、よく考えて話さないと…。
「え…と、その…ごめんなさい。お休み中…でしたか?」
そうそう。落ち着いてね。
「うん…今夜夜間勤務だから仮眠してた…」
あちゃー…タイミング悪っ…。
「そ、そう。ごめんね。直ぐ切るから、少しだけいい?話しても…」
二週間も連絡してなかったのに、都合良すぎるとは思うけど…。
「いいよ…」
トオル君、眠たそうな息吐いて答えた。
「あの…」
言いたいこと整理してかけなかったから、頭の中ぐちゃぐちゃ。どれから言おうって、咄嗟に判断できなくて、出てきた言葉は…
「私…トオル君のこと、まだよく知らない」
「へっ⁉︎ 」
眠たそうだったトオル君、少し目が覚めた?
「だから、あの…この間、私が言ったこと…撤回させて欲しいんだけど…」
しーーん…
無言になっちゃった。
そりゃそうだよね。昨夜、結婚の挨拶に来たって人に、プロポーズ撤回するって言ったんだもん…。
「あの…私…ごめんなさい。その、何もきちんと考えもしないで言っちゃったと言うか…いえ、あの、別にふざけて言ったつもりじゃなくて、あの時は、ホントに真面目に言ったつもりだったの。でも、あの…ついさっき気づいたって言うか…やっと、分かったって言うか…その…」
トオル君、何も言葉発しない。聞いてるんだよ…ね?
「もっと…トオル君のこと知って…それからでないと、ダメかな…って、思って…」
自分勝手で我がままな意見だけど、今のままじゃまだ…早い気がする……。
しーーん…
トオル君、言葉失くしたままだ。いやいや、彼が悪いんじゃない。私が浅はかだった。
「…あの…」
言葉かけようと口開いたら、ポンッと一言、返ってきた。
「いいよ。それで」
「へっ⁉︎ 」
「僕もその方がいいと思う。ミオにまだ話してない事あるし、話さないといけない事もあるし」
「えっ⁉︎ あっ、でも…昨夜、挨拶に来たってお母さんが…」
頭の中、少し混乱しつつある。でも、トオル君の声は冷静。
「一応言っといた方がご両親も安心かと思って。結婚前提で付き合ってるって」
「えっ…あの…それだけ?」
「うん。それだけ。そこまで言ったらミオが酔っ払って帰って来たから、お母さんパニクっちゃって中断になった」
玄関マットの上で、酔っ払ってる私を起こそうとしても起きないから、母親、大慌てだったらしい。
「申し訳ないけど、酔っ払いの相手なら慣れてますって言って、部屋まで抱えて上がった」
(あっ…あのユラユラ…トオル君が抱えてくれてたんだ…)
「ベッドに寝かせた時のミオ、気持ち良さそうでさ。思わず寝込み襲いたくなった」
ははは…って、笑ってる。あのね、そういうのはジョーダンに聞こえないって…。