トオル君の事となると、感情抑えられなくなるんだって、よく分かった。
(バカなの私じゃんか…)
落ち込み、しばし反省。
こんな電話の切り方して、次どうやって電話すんのよ…。
ーーと言うか、トオル君、もう二度と電話してこなかったらどうするの⁈このままお別れなんて、それでもいいの⁉︎
(……良くない…)
良くないって分かってる。でも…
(今日はもう話したくない…)
声聞いたら、きっとまたイライラする…。
今日遅刻してるし、明日また同じ事できないから…
(今夜はこのまま寝よ…)
トオル君にも、少し反省して欲しい。
(するかどうかは分からないけど…)
少なくとも、自分だけイライラするの、ヤダ。

そんな意地悪したせい?変な夢ばっか見て、寝覚め悪くて最悪。おかげで頭ボーッとしてて、列車に乗ってから気づいた。
(やばっ…ケータイ忘れた…)
電源もOFFしたままだ。これじゃあトオル君が電話してきても、私がまだ怒ってると勘違いしちゃう。
(どうしよう…)
怒りは治まったけど、昨日あんな切り方したし、今日は音信不通だし…。
(ホントにバカだ…私…)
短気は損気…おばあちゃんに小さい頃、よく言われてたのに…。
「前島さん、今日元気ないね」
コーモン様、私の笑顔引きつってるの気づいた⁈
「彼氏とケンカでもした?」
ギクギクッ!年の功ってやつ⁉︎
「な、何の事ですか?単なる寝不足ですよ、寝不足!」
…と言っても、昨夜寝たの九時だから、九時間以上も寝てるんだけど…。
アハハ…と、笑ってごまかし。
利用者の方に気づかれるなんて、プロが聞いて呆れる。
『ほのぼの園』で勤め始めてから、自然体で仕事してるせいか、私生活の影響がすぐ出ちゃう。困ったものだ…。

(ハァー…やれやれ…)
一日無事に終わって、やっと一呼吸。
ホールに飾られたオーナメント、皆に可愛いて言ってもらえた。
(嬉しかった…。喜んでもらえて良かった…)
トオル君にも報告したい。でも、ケータイないし、昨日あんな切り方したし…。
結局、自分で蒔いた種、自分に返って来てる。
(どうしようもないな…私って…)
向かい風の中、肩すくめて歩く。家に帰ったら、一番先にケータイの電源入れよう。
(後のことは、それから考えよ…)
ションボリしながら駅に着く。トオル君待ってないかな…って期待、ハズレだね…。
(そうだよね、昨日の私、ひどかったもん…)
列車に揺られて下車して、家まで徒歩十分。
十二月に入ってますます日が落ちるの早くなって、帰る頃、既に街灯が点いてる。人も疎らでなんだか寂しい道のり…。
トオル君とこんな風になる前は、こんな道歩いてても、寂しいと思った事なかった。なのに、今はなんだか心許なくて暗くて、やたらと寂しい…。
(小さい頃からずっと歩き慣れてきたはずの道なのに…)
トボトボ…
下向いて歩いてると、余計でも気分落ち込む。
(上向いて歩こう)
ずっと先の方見て歩き始めて、直ぐに立ち止まった。見覚えのある服着てる人、自分ん家の前に立ってる。しかも、話してない?母親と…。
あわわ…ってか、焦ってどうする。別にやましい付き合いしてるんじゃないし、堂々としてればいいじゃん。
「うん、そうよ、堂々と…」
なんて言いながらドキドキだよね。胸のうち…。
足元ふわついてる。一体、どんな顔して対面すればいいの、私…。

自宅の門扉まで2、3mって辺りで、二人が私に気づいて振り向いた。
ドキッ…
こういう場合、どっちを先に見ればいいのか困るよね。
「おかえり、ミオ」
先に母親、声かけてきた。
「た…ただいま」
いつも通りの調子で返す。母親の様子、普段と変わりなくて、そのまま目の前の人に言った。
「良かったら中へどうぞ。外は寒いから」
門扉を開ける。
「あっ、いえ、今日はこれから仕事なので…」
(…と言うことは、今日は夜間勤務か…)
「じゃあまた是非お越し下さい」
母親ニッコリ。そのまま門扉閉めないで行った。
「…お母さんと、何話してたの…?」
…と言うか、何故家に来たの?と聞き直した。
「ミオのケータイ、ずっと留守電だから、会って話した方が早いと思って。家の前で帰りを待ってると不審者みたいだし、だから一応、自己紹介しとこうかと思って…」
ついさっき来たばかりで、名前と仕事、言っただけなんだって。

「仕事、警察署交番勤務ですって言ったら、お母さん、目が点になってた」
「そう…」
つーか、フツウなるよね…。
「私、付き合ってること何も話してなかったから、驚いてたでしょ?」
「いや、何となく気づいてたんじゃないか?ミオがいつもお世話になってますって言われたから…」
さすが母親。私の変化に気づいてたのか。
「ところで、昨日の夜、電話で言ってた事だけど…」
ギクッ!そうだった、謝らないと…。
「ごめん、僕の記憶あやふやで、ミオの言ってること、さっぱり覚えがなくて…」
先に謝られちゃった。
「同僚に聞いたら、忘年会の夜、彼女来てたらしくて…。その人の声だと思う。女の人って」
ケータイが切れたのは、たまたま手があたったんじゃないか…って、トオル君、その辺りは電話かけてきたのも覚えてないみたいだから、記憶ないらしい。
「ごめん。こんな説明しかできない」
潔い態度。こんな正直な人に浮気とかできる訳ないって、自分が一番分かってる筈なのに…。
「ごめんなさい…私も…バカとか言って…」
感情的になっちゃって…と付け加えたら、トオル君、やっと笑顔見せた。
「ミオが感情ぶつけてくれて嬉しかった」
「えっ⁉︎ 」
「やきもち妬いてるってことだろ」
かぁー……顔火照る。図星だけに、ぐうの音も出ない。
「ミオにいらない心配かけて悪かった。次からは飲み過ぎないようにする」
「ホント?」
記憶なくなる程飲むなんて、職業以前に人としてどうなのって事だよ。
ーーなんて、偉そうにお説教しちゃったよ。
「だよな。ミオの言う通り。反省してます」
プッ……
ポリスの反省。ちょっと可笑しいかも…。
(あっ!そうだ!)
「ねぇ、次同じ事しない為に、私にもペナルティー課せさせて欲しいな」
ニッと笑うと、トオル君、困り顔して諦めた。
「仕方ない…何?」
私のペナルティーがどんなのか分からなくて、緊張してるみたい。
(面白い…)
「ちょっと耳貸して」
自宅の前だから、イチャついたりできないからね。トオル君、少し膝曲げて屈んでくれた。
「クリスマスイブの日、少しの時間でいいから会って下さい」
渡したいからね。お揃いで編んでる手袋。
「どう?会えそう?」
厳重警戒週間中で、お忙しいとは思うけど…。
「今日くらいの時間なら大丈夫。また夜間勤務だから」
家庭持ちに日勤帯勤務してもらうんだって。公務員は家庭を大事にするんだね。
「じゃあ私の仕事が終わる頃、駅まで迎えに来て」
ペナルティーついでにお願い。この際、しっかり甘えといちゃえ!
「分かった。迎えついでに夕飯もおごるし、家まで送る」
(やった‼︎ )
にこっ…と、私が笑顔になったから、トオル君、やっとホッとした。
「じゃあまた連絡する」
笑顔で車に乗り込む。
「気をつけて。お仕事頑張ってね」
助手席側から声かけた。
(なんかこうやって見送るのっていいな。夫婦みたいで…)
走り去ってく車、見えなくなるまで見送って家に入ると、母親に言われた。
「警察官と付き合うなんて、あんた、すごい勇気あるわね」
「なんでよ」
「だって、危険な仕事でしょ。いつ命落とすか分かんないじゃない。世の中物騒なんだから」
そう言われて、そっか…って気づいた。
考えてみたら交番勤務って、ホント大変かも。窃盗だの、殺人だの、事故だのって何だのって、一番先に行かなきゃならないんだもんね…。いつも命張って仕事してるんだから、忘年会の時くらい、羽目外したくもなる訳か…。
(私、ちょっと言い過ぎたかな…)
少し反省して部屋へ行く。こたつの上のケータイ、一番最初に電源入れた。
(トオル君、昨夜からずっと電話してきてる…)
なるほどね…これじゃあ家まで来る訳だ。
(メールで謝っておこう…)
ついでに二十四日、楽しみにしてるって加えとこ。

先の予定が立って、明日への切符が手に入ったみたい。
未来の地図はまだボンヤリだけど、少しずつ、描けてるような気がする。
トオル君と私、また一つ先に進んだのかもしれない……。