ラジオなんかを聴くのも、父の影響だ。


だけど、私が自分から聴くのは、この夏の間だけ。


この赤いラジオでだけ。



周波数を合わせてラジオパーソナリティの声が聴こえると、私は脚立を使って、叩きを天井からかけ始める。





「~♪」






音程崩壊の鼻唄交じりに。





≪それでは、本日のお題、『胸きゅん話』と曲のリクエストの方、行ってみたいと思いまーす!ええっと、ハンドルネーム、泣きウサギさん!≫






「ん?」



BGMとして片手間に聴きながら、首を傾げた。





「胸、きゅん話って何でしょう?」





首が叩きと同じ角度になる。





≪『ムー子さんこんにちは。』はい、こんにちは!『片想いの彼に想いを打ち明けようか迷っています。彼が他の子よりも、私に優しい気がするので、もしかしたら両想いなのかも!と思う時もあるのですが、正直恐いです。それでも先日近所の花火大会に行った時、他の友達も一緒だったんですけど、花火が上がった時にこっそり手を繋がれたんです!もうきゅんとしちゃって、これって脈ありですよね?!』泣きウサギさーん!脈あるある~!!!もう、がんばっちゃってー!!≫





テンションがかなり上がったお姉さんの声に、私の疑問は深くなるばかりだ。






今の。




どこらへんが、胸きゅん、って言うんだろう。