桂馬の。
何を見て。
何を知って。
私は、彼を大人だ、なんて思ったんだろう。
なんで気付かなかったんだろう。
なんで分からなかったんだろう。
どうして、彼の言葉を真剣に受け止めてこなかったんだろう。
どうして、彼の言葉を逃げ道としてしか捉えなかったんだろう。
過密なスケジュールの中、家まで会いに来るのは想像出来ないくらい大変だったんだろう。
勉強も仕事もして、私のせいでやらなくていい対応に追われて、その合間を縫って、必ず私に連絡をくれるのだって、当たり前の事じゃない。
混雑している電車の中、危険を冒してまで私に会いに来てくれたけど、後できっとマネージャーの人に怒られる。
「ひなが思ってる以上に、あんたのことが好きだ。」
全てを持ってそうなこの人が、私に切なく呟く言葉と同じように。
さっき、私の髪に触れたその指先が震えていた事に、今更ながら気付くなんて。
自分はどれだけ、自分のことしか、見てなかったんだろう。