いろはにほへと


私が降りる駅になると、車内は席は空いてないものの、大分空いていて、アナウンスが流される。

それに便乗するように。

「髪、切ったんだね。」

耳元で小さく訊かれて、口から心臓が飛び出そうになった。

恐る恐る振り返るけど、桂馬の表情は分からない。

ーそういえば、そうでした…

澤田でさえ、髪を切った私が私に見えないと言った。なのに、桂馬はどうして分かったんだろう。こんなに混雑していたというのに。


「降ります…」


掠れ掠れに呟いて、カチカチに足を踏み出せば、桂馬に手を引かれてホームに降り立つことになった。




「まさか、そんなにバッサリいってると思わなくて、捜すのに手間取った。」


隣同士になっても、足早に歩きながら、桂馬がそう言う。


「わ、私も…びっくりしました。まさか、電車の中でお会いできるなんて…」


話をするには、スピードが速くて、途切れ途切れになってしまうのだが、桂馬はそんなのお構いなしに、ずんずん歩く。

手は繋がれたままだから、直ぐに私が引っ張られる形になる。

そうして、人気のない高架下まで来ると、突然立ち止まった。


「ーで、どうしてまた泣いてんの。」


サングラスを外した桂馬が、私を振り返って見つめる。


今、私の顔を隠してくれる、仕事の出来る髪の毛さん達は、もう居ない。